【小説】皇族エルフ


第1話 エルフの村の歴史

大阪と奈良の県境の某所にはかつてエルフの村があった。
今は人口減少で俺とオカン以外住んでないけど、かつては歴代の天皇が定期的に行幸に訪れるほどすごい場所やったらしい。

でもそんな歴史があろうと、現代では公共交通網から外れた過疎地として容赦なく扱われている。
中学までは山を何kmも歩いてふもとにある学校に通っとったおかげで、俺は文化部エルフの癖にやたらと脚の筋肉がついた。
高校生になって原付免許をとって、ようやく俺は現代人としての生活が送れるようになった(俺の誕生日が4月2日やったから、入学式の前に原付免許を取れた)

今日は原付で河内松原駅のロータリーに来た。
高校の友人が愛国心の強い人で、俺の出身地が皇族と関わりの深い村やったことを話すと、その村に是非とも行ってみたいと言われ、こうして休日に待ち合わせて行くことになった。 
待ち合わせ場所が河内松原になったのは、高校の最寄り駅が河内松原で、友人が河内松原までの通学定期を持っとるからここになった。

待ち合わせ時間よりちょっと遅れて、友人は到着した。
「おはようさん!遅れてごめんなー!」
慎也しんやおそいで。ほな出発しよか」
「原付の後ろに乗ればええんやな?」
「うん。ほんまはアカンねんけどな。公共交通機関がないから原付二人乗りして行くしかないねん」
いつきの地元、どんなとこか楽しみや」

こうして、俺と慎也が乗る原付は奈良方面に向けて走り出した。

しばらく走って、地元の村に着いた。
「ホンマに廃村って感じやー!」
「俺の家以外みんなおらんなってん」
「ようこんなとこで暮らせるわ」
「キッツいでほんまに」

慎也は好奇心のままに村をウロウロするから、俺はそれについて行く。

「この村の廃屋の表札、みんな『二上にじょう』って書いとるな」
「村が閉鎖的すぎて苗字一つしかないねん」

そんな会話をしながら歩いていたら、天皇に関する石碑が立っとるところに到着した。

「ここで昔、天皇陛下が村祭りをご覧になられました〜みたいな事が書かれとる石碑や」
「天皇陛下がご覧になられた祭り、どんなんやったんやろ?」
「もう分からへんな。俺が産まれる前にオカン以外は全員死んでもうたし」
「オカンは祭り知らんの?」
「どうやろ。今家おるし聞くか?」
「日本の全てを愛する愛国者として、聞いておかな損や」
「ほな俺ん家行く?と言いたいところやけど……典型的なエルフの家やけど大丈夫かいな」
「オレはそういうの気にせえへんよ」
「ほんなら行こか」

俺は友人を家へ招き入れるのは初めてやった。
エルフの家とは、大抵は古びていてホコリ臭いものや。せやからほとんどの人間はあまり入りたがらへんらしい。
慎也は人間やのに気にせえへん言うてくれて、俺は表情とかには出さんかったけど、心の底ではほんまに嬉しかった。

まず俺だけ家に入って、座敷で寛いでいるオカンに友人を家にあげてもええか、友人に昔話をしてくれるかどうかを聞いた。
それを聞くとオカンはとても喜んでくれ、是非とも上がってほしいと答えたから、玄関前にいる慎也を呼んだ。

「おじゃましまーす」
(ミシミシ)
「うわ!歩くとやばい音するねんけど。これ築何年なん?」
「わりと新しめの家やってオカン言うとった気がするわ。築年数は分からんけど確か江戸時代末期の家やったはず」
「どこが新しめの家やねん!」

そんなことを話しながら、俺は座敷に通じるふすまを開けた。
ちゃぶ台の前には、日本髪で着物を着た、耳の尖っている20代くらいにしか見えへん女性……俺のオカンが居てる。
オカンがこちらを見て言うた。

「あなたが樹のお友達?ようおこしやす」
「オレ駒川慎也こまがわしんや言います。よろしゅうお頼もうします」
「樹がお友達連れてくるの初めてやからほんまに嬉しいわぁ。仲良うしたってな」

俺達は座布団に座った。

「村祭りの目的はなぁ、天皇陛下や、他の神々に感謝を伝えるために行ってん。戦前はようけ盛り上がったと聞いとるわ。
せやけど大東亜戦争によって男は徴兵され、女は軍需工場で働くため街を出ていき、そこで空襲被害を受けたことによって、祭りの歴史を知る者は消えてもうた。わてもよう知らんねん」
「そんな歴史があったんや……悲しい歴史聞いてすんまへん」
「えーよ。こんなん聞きに来る人もようおらんし。村長の娘として語り継いでいかんとあかんね」
「っちゅうことは樹って村長の孫なん?」
「せや。俺ん家だけこの不便な村から出ていかへんのは、オカンに村長一族としてのプライドがあるからやねん。
まあ俺は高校卒業したら家出るつもりやけど」
「まーたそないな事言うて!樹が出ていくなんて"時が来るまで"認めまへん」
「俺はエルフとはいえ大阪の人間に揉まれて育ったからいらちやねん。何百年も待ってられへんわ」
「時って何時なん?」
慎也の質問に、オカンが答えた。
「皇室が我が一族の"宝"を求めた時、それが"時"や」
「宝って何なん?」
「それは家長以外に教えてはならんことになっとる」
「これに関しては息子である俺も知らんねん。こう言うたら悪いけど、エルフが陰湿って言われる理由が分かる気ぃするわ」
「人間の価値観で陰湿やなんて言われとうありまへん!
全く、なんで我が子は人間の価値観に染まってもうたんや……」
「面倒な一族やなぁ。
とりあえず、オレトイレ行ったら帰るわ。トイレどこにあるん?」
「厠なら外や」
「今どきトイレのこと厠なんて呼ぶ人初めて見たわ」
「流石に俺かて他所のトイレはトイレ呼びや。でもこの家のトイレは厠と呼ぶべきやと思うねん。見れば分かる」

俺は慎也を庭にある厠まで連れていった。
厠は木で作られ、外からほとんど中が見えるような構造になっとって、出したものはそのまま川に流れる……大阪やとこの村以外ではまず見いひん古臭い作りの厠が我が家の便所になっとる。

野郎の排泄なぞ見たくないから俺は山の方を眺めて慎也と会話をした。

「なんで改築せえへんの?」
「母子家庭にそんな金あるわけないやろ」
「ごめん……」


帰りはまた原付二人乗りで、河内松原駅まで送る。
帰りしなに慎也といろいろ話をした。
「樹のオカンめっちゃ顔若かったなー!ホンマにエルフって歳とらないんやな」
「そんなええもんでもないで?いくら顔が若くても中身が歳いきすぎてると周りの人と文化のジェネレーションギャップがキツいねん。俺がスマホの購入許されたの高校入った時やからな?しかも自腹で。小学生からスマホを持っとる時代に有り得んやろ」
「ひょえ〜たしかにあのオカンの考え古臭そうやもんなー。なんか樹と違って典型的なエルフって感じがするわ」
「オカンは天皇陛下を敬う姿勢以外はわりと典型的なエルフやな。選挙はいつも与党に入れる。これに関しては村の歴史の影響が大きいけど」
「たしかに。亜人種は平等政策に力を入れる左派の野党に入れとる人が多いイメージあるけど、生い立ちによってそこは変わってくるんやろな」
「俺はオカンの言う伝統みたいなやつは好かんけど、愛国心だけは大事にしたいと思うとる。愛国心は国の基礎を作り上げるものや」
「その通りや!愛国心と天皇陛下への忠誠心、これが今の日本人に足りんねん!
昭和天皇の人間宣言以降、国民の間では天皇は人間であるという見方が主流になってしもた。
オレは人間宣言について、GHQが日本の力を奪うために言わされた嘘やと考えとる。
神武天皇から代々引き継がれる神のy染色体を持つ存在、それが皇族なんや!」
「皇族という種族を認めへん左派野党が種族平等やら言うても説得力ないんよな」
「ほんまにその通りや!やっぱ樹とは気ぃ合うわ〜」
「俺もや。この高校に入ってから、政治や社会について語り合える仲間と出会えてほんまに嬉しい。
中学にはそんな人おらんかったからな。
まあとりあえず、今後もよろしゅうな」
「うん!よろしゅう!」


第2話 関東から来た魔法使い

今日はバイトに行った。
俺の高校は進学校やから本来はバイト禁止やけど、家庭の事情を考慮されて俺だけ特別にアルバイトを許可されとる。
バイト代はスマホ代と原付のローン返済に充てとる。
冷静に考えたら、オカンのワガママで交通空白地帯に住んどんのに、息子の通学に必要な原付のローンを子供に負担させるのはおかしいやろ。
オカンに言うたら絶対怒られるから絶対言わんけど……

そないなことを考えながらバイト先に出勤したら初対面の、髪をおさげにした耳の尖った女性が居てた。
そういえば店長から新人が入ってくると聞いた事を思い出した。彼女がそうらしい。

「初めまして!今日からここで働く、横川沙奈よこかわさなです。よろしくお願いします!
初日についてくれる先輩が同族っぽくて安心しました〜」

彼女は関東なまりの言葉でそう言うた。テレビ以外で関東弁を聞いたのは初めてやった。
明治維新後、日本の中心が京都に統一されたことによって、京都の言葉が標準語として使用されるようになった。
しかし、日本の各地では今でも独自の言葉が残っとるいうことを、彼女の喋りで思い出した。

「俺は二上樹にじょういつきです。俺も春にここ入ったばかりで経験浅いですけど、よろしゅうお頼申します」
「樹先輩って高校生くらいですか?」

この言葉を聞いて、彼女が俺と違うて、多数のエルフやハーフエルフと日常的に関わっているエルフ族であることを察した。(エルフ族とはエルフとハーフエルフを一纏めにした呼び方)
なんでか言うたら日常的に多数のエルフ族と接していなければ、エルフ族の顔から年齢を推測するのは不可能やから。
ちなみに俺はオカン以外のエルフ族とまともに話したことないから年齢推測はでけへん。

「高校1年生や。横川さんは何歳ですか?」
「沙奈でいいよー
わたしは18歳。大学1年生」
「沙奈はんは進学でこっちに来た感じですか?」
「うん。大学で魔法の研究をしたいんだ」

魔法、それはエルフを中心に様々な人が使えたといわれている、人知を超えた特別な力。
マナの樹から放出されるマナを操り、火や水を産み出すことができるらしい。
日本において魔法が途絶えたのは1588年。
豊臣秀吉は刀狩の一環として民衆の力を奪うため、魔法の力の源であるマナの木を伐採した。
マナがなければ魔法は使われへん。これによって人々は魔法文化の継承が難しくなり、文化が途絶えたと歴史の授業で習うたことがある。

「魔法の研究、素晴らしいですね。応援してます」
「樹先輩は魔法使える?多分ハーフエルフ……ですよね?」
「俺はエルフです。魔法は流石に使われへんなぁ」
「エルフだったんだ!エルフほど耳が尖ってないからわたしと同じハーフエルフかと思ったよ〜」
「へえ。耳の尖り具合なんて今まで意識したことなかったわ」

俺はバイト先の休憩室にある鏡を覗き込んで、自らの耳を見た。
言われてみればほんまに、オカンと比べて俺の耳はあんまり尖ってない。
オカン以外のエルフとの交流が無さすぎたせいか、陰キャ故に自分の身体的特徴に興味が無さすぎたんか、16年間生きとって初めてこの事に気がついた。
オカンがしっかりとエルフの耳をしとるから、つまり俺の耳の形は恐らく父親の遺伝子の影響や。

俺の父親について、俺は今まで考えへんようにしてきた。
世間で耳にする母子家庭いうものは、母親の彼氏が頻繁に変わって苦労するとか、そういうものばかりやけど、うちのオカンには男っ気が一切ない。

そもそもエルフという種族は性欲が薄い。性行為は群れの存続のため、社会への貢献行為として子作りを行う者が多いと聞く。
エルフが寿命のわりに人口が少ないのは、人間のように性欲で子供を産まんからや。

恐らく、オカンは村の存続のために俺を産んだ。
村長の娘として、村の宝を守るために。

そういえばもうすぐ祖父の命日や。
祖父は俺が生まれる前の年の7月のはじめに亡うなったとオカンから聞いた。
人は子作りをしたら、約40週間お腹の中で成長したのちに産まれてくる。それは人間もエルフも変わらへん。
祖父の命日と俺の誕生日は39週間の間があいている。
おそらく祖父が死んだ影響によって、俺は産まれたんやと思う。
そん時にオカンの周りに居てそうな男性は……思い浮かばへん。

そないな事を考えていると、休憩室の扉がバンと音を立てて開いた。
「いつまでダラダラしとんねん!はよレジ番変われや!」

あかん!考え込んどったらもう勤務時間始まっとった!
俺はさっき考えた事を頭の片隅に置きながら、歳上の後輩に仕事を教えた。

第3話 埼玉二上家の存在

バイトが終わった。

俺と沙奈はんは帰る方向が真逆やったけど、魔法についての話を聞きたかったから原付を手で押しながら、帰り道に紗奈はんと話をした。

「沙奈はんは魔法の研究したい言うてはりましたけど、沙奈はんはどないな魔法使えるんですか?」
「いろいろあるけど……一番便利なのだと瞬間移動かな?
朝鮮半島だと縮地法とも言われている魔法で、あの金日成や金正日も使っていたと言われてる魔法だよ。
まあ瞬間移動の実在がバレると鉄道会社や自動車メーカーの売上が落ちるからどこの国も隠蔽してるけどね」
「瞬間移動が実在するなんて驚きや……
沙奈はん、もしよければなんですけど、その魔法を俺に教えてもらうことってできますか?」
「一つだけ条件を呑むなら、教えてあげる」
「その条件は?」
「人間には絶対この魔法の存在を教えないこと」
「分かった。約束します」
「うん。じゃあ次にシフト被る日の退勤後に教えるね」
「ありがとう」
「同族のよしみとして当然だよ〜」
(ブブッ)
「あっLINE来た」

沙奈はんはスマホを取り出して、LINEを見た。
俺はいけないと分かっとっても、少し気になって沙奈はんのスマホの画面を一瞬見た。
相手の名前は『二上香』……俺と同じ苗字やった。

「二上……」
その言葉はつい口に出とった。
「二上?……ほんとだ!樹くんとかおりちゃん同じ苗字だ!」
「二上は俺の村のエルフ全員が名乗っている苗字です。
その二上香いう人がもしエルフ族やったら、俺の親族の可能性が高い」
「香ちゃんはハーフエルフの女の子で、お母さんがエルフだね。そういえば香ちゃんのお母さんは大阪出身って話してたような気がするから、本当に関係があるのかも」
「香はんはどこに住んどるんですか?」
「私の地元、埼玉県草加市に住んでるよ。実家が同じマンションなんだ」
「瞬間移動魔法って、移動距離とかに制限はあるんですか?
もし行けるんやったら草加市に行って埼玉の二上家にうてみたい」
「魔法の使用者が一度訪れたことがあって、かつマナの濃い場所なら地球上のどこでも行けるよ。
だから次会う時は、行きは私が魔法を発動させて実家マンションまで行って、帰りは樹先輩が魔法の練習してみようか」
「ほなそうします。ほんまに俺のためにありがとうございます」
「いいのいいの!人間が支配するこの世の中だからこそ、我々エルフ族は連帯していかなきゃいけないと思うからね」
「そうやな」
「じゃあ私、家ここだから。じゃあね」
「関東人はほんまに『じゃあね』言うんやな。
ほな俺も、じゃあね」
「じゃあねー!」

かわいいお姉さんやったな。
原付で帰っている最中、ずっと沙奈はんの笑顔が頭から離れへんかった。

ムラムラしたから、家に帰って抜いた。
沙奈はんの大きな胸と、太い太ももを頭に思い描いた。
同族故に寿命差のない、明るい未来を想像した。
今までにないくらい気持ちよかった。
賢者タイムになって思た。俺には明らかに性欲がある。
エルフには性欲がないと言われとる。それに俺の耳の形状……
俺は自分をエルフやと思い込んどっただけで、ほんまはハーフエルフなのかもしれへん。

父親についての情報を増やしたくて、俺はオカンに聞いた。
「俺のオトンってどんな人やったん?」
「今の樹は知らんでエエ」
「せめて種族くらい教えてくれへんか?人間なん?」
「人間では絶対にない」
「ほんならハーフエルフ?」
ちゃ
時が来たら、いずれ分かる」
「毎回それやな……もうええわ」

俺は自分の部屋に戻った。
人間ではない、ハーフエルフでもない、ほなエルフ?エルフ同士から性欲のある子供が生まれる訳が無い。
獣人?そもそも獣人とエルフは子を作れへん。
それ以外に日本に住む種族といったら、皇族のみ。
オカンみたいな一般人が皇族とヤれるわけないやん。

もう考えても無駄やと思った。終わり!寝る!

第4話 二上家の真実

3日後、沙奈はんとまたシフトが被った。
退勤後、俺らは近くの公園に移動した。
「この公園にはマナの木が生えてるの。
もし今後魔法の練習をする時は、マナの木がある場所を頭に入れておくといいよ。
魔法はマナがあるところでないと使えないからね。
ちなみに、現代においてマナの木が生えているところは基本的に左翼活動家が活発なところが多いよ」
「活動家の力がないと現代でマナの木を植えるのは難しいんやな……」

俺達は公園の公衆トイレの裏で魔法を使うことにした。
「ここだったら人に見られないね。じゃあ瞬間移動しよっか。
私の手を掴んで」
沙奈はんは右手を差し出してきた。
女の子と手を繋ぐのは人生で初めてやからちょっと躊躇うも、その手をとった。
沙奈はんの温もりが伝わってくる。
「目を瞑って、マナのエネルギーを体に取り込む。
そして日本地図を思い浮かべて、行きたい場所にズームインしていく。
行先の景色がはっきり見えたら……呪文を唱えて力を解放する。
天よ、我が思い描きしの地へ、我ら2人を送りたまえ。
空間瞬転移!」

その瞬間、体が一瞬無重力に包まれた。
重力が元に戻ったら、外の気温が変わっていた。

「はい、目ぇ開けていいよ」
紗奈はんの声を聞いて目を開けると、目の前にはマナの木、横には大きなマンションがあった。
マナの木がマンションの敷地内らしき場所にある言うことは、ここにもたぶん左翼活動家がおるんやろなと思た。
空を見上げてみると、さっきの公園よりも空の色が暗く、日の入り時間が違うんやと実感した。
「ここが草加市なん?」
「うん。実家のマンションだよ。
さあ話は通してあるから、かおりちゃん家行こうか」

俺は沙奈はんに連れられ、エレベーターに乗った。
エレベーターの中で、俺はスマホの地図アプリを開いた。
ほんまに現在地が埼玉県草加市になっとる。

エレベーターが目的の階に止まって、俺達はまた歩き出した。
「ここがかおりちゃんの家だよ」
二上にじょうという表札を確認し、俺はインターホンを押した。
中から足音が近づいてきて、ドアが開いた。
ドアを開けた人物は、制服姿のジト目の少女やった。なんとなく、彼女が二上香やと思った。
「あなたが"お兄ちゃん"?」
「お兄ちゃん!?兄妹だったの!?」
「俺は何も知らへんよ!?」
「本家の跡取りは本当に何も知らされてないのね……
いいわ。うちにはもう守秘義務なんてないし、全てをお兄ちゃんにお話するわ……上がって」
そう言われて、俺は二上家の玄関に上がる。
「なんか訳ありっぽいから私はここで待ってるね」
紗奈はんは外で待ってるらしい。

埼玉の二上家は大阪の二上家と違うて、家の作りがしっかりしとって、歩いても全然音が鳴らへん。
リビングに着くと、そこはオシャレな家具が沢山並べられとって、実家との経済格差を感じた。
台所から聞こえる水の音が止んで、香はんの母親と思われる女性がこちらを見た。
その女性の顔は、オカンと全く同じやった。
「アンタが二上一族の宝かいな」
「俺は何も知りまへん」
「そういう掟やもんなぁ。
ええわ。全部話したる。そこに座り」
俺は言われるがままに来客用の椅子に座る。

「アンタがどこまで真実を知っとるんか分からへんさかい、聞きたいことをまとめてほしい」
「俺が知りたいんは、
①この家は大阪の二上の村とどないな関係があるんか
②宝とは何か
③俺の父親が誰か知っとるか
この3つです」
「分かった。まずは①から答えていくで。
わては二上の村の村長家の次女として産まれたんや。
宝の相続が姉はんに確定して、わては村を追い出され関東へと流れ着いたんや」
「つまりあなたは俺の叔母いうことですか」
「せや。姉はんと顔が同じなのは一卵性の双子やからや」
「オカンに妹がおったなんて話、一回も聞いてへんわ」
「わてが追い出された時ほんまに揉めたさかい、話しとうなかったんやろうなぁ。
ほんで次、②宝とは何か、について話していくで。
これは簡単や。アンタのことや」
「最初会うた時も俺が宝や言うてはりましたけど、何も分かりまへん。1から説明してください」
「正確に言えばアンタというよりアンタのy染色体やな。
二上の一族は、古来から天皇の精子を冷凍魔法で保存してきた一族や。
もしも皇族が何らかの理由で滅びた際に、神の遺伝子を途絶えさせないために、長寿であるエルフ族にその使命が与えられた。
しかし、明治維新の際に天皇家と村の連携が途絶えたことによりこの村は一般の村として扱われるようになって、徴兵もされ、わてとオトンと姉はん以外死んでもうた。
通常ならわてか姉はんが凍結精子を守っていかなアカンねんけど、生憎わても姉はんも魔法オンチで、凍結魔法を使われへん。
どないしよかオトンが考えとった時、オトンが病で倒れた。
オトンは凍結魔法をもう使えへん。せやからわてと姉はんは精子を解凍し、オメコ女性器に入れたんや。
ほんで姉はんは男の子を授かり、わては女の子を授かった。
わての子に皇族のy染色体はなかったから、家を追い出された。ほんで関東で娘を産み育てた。
②のつもりが③まで話してしもたな。つまりアンタのオトンは昔の天皇や」

衝撃的な事実やった。
流石にそれは嘘やろ?思うて、何か反論を探して記憶を思い返したけど、事実を裏付ける証拠しか出て来うへん。
例えば、この前オカンに俺の父親の種族を問うた時に言われた答え、人間でもハーフエルフでもない言うやつ、天皇は皇族やからどちらにも当てはまらへんかったんや。
つまり俺の種族はエルフでもハーフエルフでもなく皇族のエルフ……っちゅうことになる。
オカンが俺の人間的な価値観を嫌って、エルフとして育てようとしたんは、天皇を人間と認めてへんからやったんや。
皇族的な価値観の教育いうと帝王学とかになってくるから一般人では教育でけへんし、エルフとして育てるしかなかったんやろな。

「ねえ、お兄ちゃんは昭和天皇の人間宣言、信じてる?」
突然の香はんからの質問に戸惑い、しばらく考えた。
そして、こう答えた。
「分からへん。
俺の中の皇族の部分が、人間とどう違うんか、まだ分からへんから、何とも答えられへん」
「そう……じゃあもし分かったら私に教えて。
LINE交換しようか」

俺はスマホを取り出して、香はんとLINEを交換した。
そういえば沙奈はんとはLINE交換してへんかったな……後で誘おうと脳内タスクに入れた。

ふとスマホの時刻を見ると、もうそろそろ帰ったほうがええ時間になっとった。

「ほんなら俺はここら辺で帰ります。
いろいろ話聞かせてもろて、ありがとうございました。
ほなまた」

別れの挨拶を済ませて、玄関の外に出た。
玄関の前には沙奈はんが待っとった。
「沢山話し込んでたみたいだねー
楽しかった?」
「楽しかった言うより、長年の謎が解けた感じや」
「そうなんだ。じゃあ帰ろうか」

帰りは俺が魔法を使う約束やった。
見よう見まねで、さっきの沙奈はんの作法を真似したけど、一向に転移せえへんくて、痺れを切らした沙奈はんが瞬間移動を発動させた。

その後は、特に会話もなく(正確には、沙奈はんにいろいろ話しかけられたけど、さっきの事で頭が一杯で、まともに返答でけへんかった)解散になった。

俺は皇族。

皇族のエルフ

皇族エルフ

皇族と人間、何が違う?

皇族には権力がある。国民の象徴としての力がある。
俺には権力がない。
中学の頃内申点目当てで生徒会に立候補したら、陽キャに選挙でボロ負けした程度に、人を惹きつける才能が不足しとる。

そないな事を考えとったら、家に着いた。
家に着いて俺は、皇族の事をいろいろと調べた。
しかし、皇族の種族としての特徴は何も出てこうへんかった。

やはり、国民の大多数が思うように、皇族は人間なんか?
俺はオカンから、天皇は現人神やと言う教育を受けた。
ほんなら俺も現人神のはずや。
せやけど、俺の人生の成功体験が高校受験成功しかない以上、俺が神であるかは怪しい。
俺は、今まで接してきた価値観の全てが、ほんまに正しいものなんか、全てが分からなくなった。

第5話 お酒の失敗は成人前にしたほうがいい

翌日は学校やった。
昨日のことで頭が一杯で、寝不足のままフラフラ〜と原付に乗って学校に行った。

「どないしたん?今日のいつき、いつも以上に大人しいで?」
「なんでもない」

慎也には絶対に言えんかった。
俺の出自のことも、魔法のことも。

「ほな、元気取り戻すために遊びの計画立てよ!
オレと一緒に宝探しせぇへん?」
「宝探しって……俺らもう高校生やで。どこで何を探すんや」
「樹の村の廃屋でお宝探しや。
樹ん家が江戸時代末期に建てられて新しめっちゅう扱いなんやろ?
それやったらあの村の他の家はもっと古いものやろうし、江戸時代のお宝とか埋まっとんちゃう?
それが樹のオカンが言うとった一族の宝の手がかりにも繋がるかもしれへんし」
「一族の宝なぁ……」

俺は一族の宝の正体をもう知ってしもた。
でも、慎也がせっかく俺を励まそう思て誘ってくれたから、断る訳にもいかへんかった。

「ほな、次の土曜、河内松原で10時に待ち合わせや」


次の土曜、この前のように河内松原で待ち合わせて、原付二人乗りで俺の村に行った。
オカンは今回も俺の友人を歓迎した。
余所者の人間に対して宝探しを許したんは、”宝”の証拠が俺の遺伝子以外ないからこそできるんやろなと俺は考えた。

「軍手ヨシ!懐中電灯ヨシ!探索開始や!」

まず最初は、川の近くの家に入った。
この家の表札は「二上」やけど、オカンはこの家を「川辺はん」と呼んどる。いわゆる屋号言うやつで、川の近くにあることからそう呼ばれるようになったらしい。

「うわ〜ホンマに散らかっとるな」
川辺はんの家は一部屋根が崩壊していて、床を突き破って草が生えとる。
「この村の家はみんなこんな感じや思うで」

俺は汚いのは嫌やから入口で待機して、慎也が宝探しをするのを見守る。
慎也は床に落ちとった一冊の巻物を手に取った。
「河内二上村 伝統魔法図鑑……」
慎也が巻物を読み進めていくと、彼の表情がワクワクに変わっていくのが見えた。
「これホンマすごいで!いろんな魔法について図解付きで載っとる!」
内容が気になったから俺は慎也のところまで行って、巻物を見た。
巻物は達筆な旧仮名遣いで魔法の使い方について書かれとった。
「これはおそらく刀狩り以前の魔法の歴史を知るエルフがこっそり書き残した書物やな。まさかこんなすごいもんが村にあるとは……」
「これ読んだらオレも魔法使えるようになるんかな?」
「ほんなら試してみる?村の中心にマナの大樹があるから、そこなら魔法を使えるはずや」
「やったるわ!」

俺達は川辺はんの家を出て、マナの大樹まで移動した。
そして、慎也は巻物を持ちながら魔法を使おうとする。
「まず最初のページのやつからいくで。
炎奥武!
……何も出えへん」
「ただ魔法名を言うだけや駄目やねん。
周囲のマナを取り込んで、マナを魔法に変換するための呪文を自分で作って唱えなアカン」

沙奈はんから教えてもろた魔法の出し方を参考にして、俺がお手本を見せよう。

「人を人たらしめた英智の結晶……マナの恵みにより、その姿を現さん!
炎奥武!」
俺がそう叫ぶと、地面から生えた雑草の先端が焦げ、細い煙がのぼった。
魔法を使たらどっと疲れがきたから、マナの大樹にもたれてしばらく休むことにした。
「魔法の威力に対して使う体力がデカすぎるわ……」
「ひょえ〜……魔法ってえらい体力使うんやな。
俺宝探しの体力残したいから魔法の練習は遠慮するわ……」

俺は今、人生で初めて魔法を使た。
そうして分かったのは、魔法はめっちゃ疲れる言うことやった。
魔法を使た後も涼しい顔をしとった沙奈はんはすごい魔力の持ち主やと言うことを、いま俺は理解した。
そういや、結局あの時の話が衝撃的すぎて沙奈はんのLINE聞くのを忘れとったわ。
明日のバイトはシフト一緒のはずやし、その時に聞こう。

俺達はしばらく休んでから、次の廃屋へと向かった。
次に入ると決めた廃屋は、誰も使てへんはずやのに妙に手入れされてはることが前々から気になっとった、越後屋はんと呼ばれる家。
玄関のドアを開けると、強烈なアルコール臭が鼻を突いた。
その家の中には大量のワインがあった。
しかも瓶だけやなくて樽まである。ここにあるワインはここで作られているようやった。
そういえばオカンは時々酔っ払って夜に帰ってくることがあった。
せやけど村の外に飲みに行っとるわけや無さそうやったし、どういう事なのか疑問やったけど、越後屋はんでワインを作って1人で飲んどんのやったら納得や。

「お酒があるで!ほな飲み会しよーや!」
「いや……俺ら未成年やろ……
そもそも俺らは原付でここまで来たんやから、もし飲んだら山を1人で下りてもらうことになるで」
「オレなら1人で山降りるから一緒に飲もーや。
樹となら楽しく飲めそうな気がするんや」
「でも流石に未成年はアカンやろ。学校にバレたらどうすんねん」
「樹、お酒のやらかしは未成年のうちに親しい間柄でやるのが一番やねん。
大学に入ったらどうせ新歓で未成年飲酒させられるんやから、早いうちに未成年飲酒して自分のお酒の限界を知っておくのが自己防衛に繋がるんや」
「それもそうやな……
ほなちょっと怖いけど、飲もか。
その代わりちゃんと1人で帰りや」

俺はこの家に備え付けてあったワイングラス2つを水洗いし、テーブルへグラスを持って行った。

「慎也は酒飲んだことあるん?」
「ない」
「ないんかい!」
「ないから飲みたいねん。樹やったらオレが酒で変な事してもみんなに秘密にしてくれそうやし」
慎也はそう言いながら、ワインをついだ。
「俺の事信頼してくれるんやな」
俺もワインをつぐ。
「当たり前やろ。親友やし」
俺達は乾杯をして、グビッとワインを飲んだ。
今まで感じたことないような刺激がきつかったから、俺は一口で3分の1くらいしか飲めへんかった。
それに対して慎也はグラス一杯分を一気に飲み干した。

「よう一気に飲めるわ」
「大学行った時に舐められへんように頑張ったわ」
「まあワインって一気飲み言うより味わって飲むもんらしいけどな」
「へえ〜オレよりお酒詳しいやん。
さては樹……未成年飲酒経験あるんか?」
「ないって
単にうちでぶどう作っとるから、ぶどうの関連製品に関する知識があるだけや」
「樹んぶどう作っとるん?ほんならこのワインも樹ん家で採れたぶどう使うとるんかな?」
「使うとると思うで。オカンがよそからぶどう買うはずないし」
「ぶどうから酒まで一貫して作るのすごいなぁ。
こんな美味しいなら道の駅とかで売ったりせーへんのかな?」
「密造酒やろうから無理やな。捕まるで」
「あ〜酒って勝手に作ったらアカンのやった!」

俺は二口目を飲む。
たしかにうちのぶどうの香りがすると思た。

だんだん体が熱くなってきた。
慎也はさらに2杯目を飲むらしい。すごいな。

「樹、もうきつそうやな」
「別に。慎也こそ顔真っ赤っかやで」
「オレは多分いけるわ。なんたってオカンが鹿児島の出身やからな」
「それ関係あるん?」
「前読んだ記事で、鹿児島とか東北とか、日本の端っこの人ほどお酒強いって書いてあってん。
逆に関西とか東海の人は弱いらしいで」
「へえ〜ほんなら俺は両親どちらも関西人やからよわよわやな」
「樹のオトンも関西の人なん?」
「京都や」
「話したかったらでええけど、樹のオトンってどんな人なん?」

普段やったらここで適当にはぐらかしたやろうけど、俺は酒の勢いでつい言うてしもた。

「実はな……俺のオトン天皇やねん」
「は……?」
慎也の表情がひきつる。
戸惑うのも無理はない。俺かて最初は驚いたし。

「どの天皇かは分からへんけど、この村に昔から保存されとった昔の天皇の精子が俺のオトンなんや」
「樹……その冗談おもんないで。
流石に皇族をネタにするのは愛国者としてアカンやろ。
お前が今まで言うてきた愛国心とやらは全部嘘やったんか?」
ちゃう!そんなんやない……俺はただ慎也に俺の出自を知ってもらいたい思て……」
「出自?もし樹が天皇の血を引いとるとしたら、樹には天皇のy染色体……つまり神の遺伝子が流れとることになる。
別に樹が亜人種だからってどうこう言うわけやないけどさ……自分の身分分かっとる?
神を名乗るのがどれだけおこがましいことか分かってへんやろ。
樹がこんな奴やったとは思わんかったわ。二度と顔も見たくない。帰る」

慎也はそう言い残して、酒でフラフラな走りで出ていった。

俺はフラフラな状態で追いかけようとしたけど、慎也が村から出るのを見届けた段階で眠くなって自宅へ戻った。


第6話 相手

日曜日の朝。
夜中に目が覚めてちょっと活動して二度寝して迎えた朝。
二日酔いはならんかった。あれってもっと沢山飲まんとならんもんなんか?
酒といえば思い出す。昨日のこと。
あの後、慎也はちゃんと帰れたやろか。
まあもう二度と顔も見たくないと言われた以上、関係ないか。
今日は8時から13時までバイトがある。そこで沙奈はんとLINE交換しようと思う。

俺は朝ごはんを食べて、原付でバイト先へ向かった。
道中、慎也が道端で倒れてへんかチラチラ道端に目をやった。



「おはようございます」

バイト先には沙奈はんが既に来とった。

「おはよ〜
最近暑くなってきたねー」
「夏が近づいとる感じがしますよね。今日も出勤する時ホンマ暑かったです」
「今の時期でこれだと7月とかはもっとヤバいよね!
あ〜どうせならもう早く夏休みにならないかな〜」
「沙奈はんは夏休み、何かやりたいこととかあるんですか?」
「具体的には決まってないけど、地元帰って沢山遊びたいな」
「地元帰ってまうんか。寂しなるな」

LINE聞くなら今やと確信した。
俺は勇気を出して言葉を紡ぐ。

「ほんなら、LINE交換せぇへん?」
「あー……ごめんね。彼氏から他の男とLINE交換しちゃダメって言われてるの」

その言葉に、俺はショックを受けた。
沙奈はんに彼氏がおったなんて……と思ったけど、沙奈はんほど可愛くて優しい女の子に彼氏がおらんかったら不自然やとも思った。
俺はできるだけショックを受けた素振りを見せず、会話を続けた。

「彼氏いてはったんですね。彼氏はんはどこに住んではるんですか?」
「地元だよ!遠距離だから、こうしてバイト入って頑張ってるんだ〜」
「え……でも沙奈はんって魔法あるから交通費いらないんちゃうん」
「人間にはこの事秘密だからね〜凡人のフリ代だね」
「彼氏はん人間なんですか」
「うん!人間って亜人種に偏見ある人多いのに、それでもわたしのこと愛してくれて、すごい嬉しいんだ」
「いい相手が居ってよかったですね。
ほな、仕事行きましょうか」
「うん!」

俺は準備を整えて、休憩室を出た。
そして、心を殺しながら接客をした。

第7話 上洛

俺にはもう何にもあらへん。

友情も、恋も、それに付随した人生の希望も。

俺は天皇の血を引いているはずやのに、あの家で生まれてしもたせいで、人々から相応の扱いを受けてない。

そこで俺は考えた。俺が俺に相応しい人生を送るにはどないすればええ?

答えは一つや。皇室入りしかない。
いや、本来皇室にいるはずの人材やから皇室帰りと言うたほうがええんかな?

まあどっちでもええわ。
退勤後、原付をバイト先に置いたままにして、近鉄電車に乗った。
俺は京に上る。

橿原神宮前で近鉄京都線に乗り換え、竹田駅で地下鉄烏丸線に乗り換え、しばらくしたら丸太町で下車。
降りたらそこはもう皇居。
俺は皇居の内部へ繋がる入口へと向かった。
そこには皇居を警備する皇宮警察(都道府県警とは別の組織)がった。

 「通してください。俺は昔の天皇の血を引く二上樹にじょういつき……ちゃうな、二上宮樹仁にじょうのみやいつひとです」
「はあ、誰だか知りませんが、ここは関係者以外立ち入り禁止です」
「俺は関係者です。皇族なので」
「一般人が皇族を名乗るなんて不敬にも程がありますよ。これ以上入ろうとするんやったら不審者として警視庁(京都は首都なので警視庁が管轄している)呼びますよ」
 「ほんなら力ずくで入ったるわ!」

俺はあの喧嘩の後、魔法図鑑を読み込んで魔法をいろいろ調べた。
そしたら、魔法が下手な俺にも唯一戦いで使えそうな魔法が見つかった。
それを今、発動する!

「あまねく自然よ……我が呼び声に応え……」

マナを集める!

マナを集める!

あれ……?集まらへん……

もしやこの場所……そもそもマナがない……?

アカンーーーーやらかしたーーーーーー!!!!

マナはマナの木の周辺にしかない!!!

こんなんただの痛いセリフ吐いただけの不審者やんか!

ガチで恥ずかしすぎる。

俺は走ってその場を後にして、皇居の公園部分にある公衆トイレに駆け込んだ。

あーやっぱり俺は、どう足掻いても一般人なんやな。
どんなことも自分の思い通りにならへん。
これのどこが現人神や……とおもたけど、よう考えたら昭和天皇も戦争に負けとる時点で神としての力は存在しないようなもんやんか。
ホンマモンの神やったら全て思い通りに事を進めることができたはずやし。

ほんなら天皇とは、神やから今も日本の頂点に降臨してはるのではなく、日本の象徴やから日本の頂点に君臨してはる言うことか?
そう考えたら象徴ですらない一般人の俺が、皇室という立場になれへんのは当然の事なのかもしれへんな。

この考えに至った時、全ての事が腑に落ちた。
俺は大阪府南河内郡太子町にある二上の家に生まれた以上、普通のハーフエルフとして数百年の人生を生きていくしかない。
それが辛いものであったとしても、俺は神ではないんやから、しゃあない。

『ねえ、お兄ちゃんは昭和天皇の人間宣言、信じてる?』
香はんに前に言われた言葉、今なら確信を持って答えられる。
天皇は地位を持っただけの人間や。
香はんは『答えが分かったらLINEして』と言うてはった。
俺は見つけ出した答えを、香はんのLINEに送った。

LINEを閉じた後、なんとなくTwitterを開いた。
不審者速報というアカウントのツイートが流れてきた。
『不審者速報 @fushinsha… 2分 ⋮
(京)上京区皇居1
皇居を警備する警察に話しかけ、不審な動きをした。6月16日16時頃 https…
「通してください。俺は昔の天皇の血を引く者です」
「あまねく自然よ……我が呼び声に応え……」』

このツイートは投稿して2分しか経ってへんのに、沢山のいいねとRTがされとった。
ツイートへの反応を見たら……めっちゃ笑われとった。
やめーや。俺は大阪人やから笑わせるのは好きやけど、笑われるのは嫌いなんや。

あーもう恥ずかしい。ほな帰ろ。

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