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第31話 介護施設を守れ

2020年3月22日

 この日、台湾での新規コロナ感染者は16人。そのうち海外流入が13人、国内感染が3人。3人中の1人は感染源不明で、且つ、介護施設で働く看護師だった。

20代女性。渡航歴なし。3月12日発熱を自覚したが、出勤した。3月15日は自宅療養し、3月16日病院受診後、帰宅。3月18日出勤し、3月19日は自宅療養。3月20日再受診、検査を受け、3月21日夜に確定診断。高齢者介護施設勤務の看護師。

 第一報で感染者が介護施設勤務者であることを把握した中央感染症指揮センター(新型コロナ対策本部)は、彼女が勤務する施設と連携し、夜通しで対応した。

 入所者53名は全員PCR検査を受け、結果確認後に施設からの移動を開始した。介護度の高い5人が病院へ。残りの入所者は2グループに分かれて集中検疫所に収容され、個室での隔離を開始。介護人員は他施設から派遣された。入所者全員が移動した後に施設は全面消毒となった。
 職員は28人。全員が深夜に召集され、同様にPCR検査を受け、検査結果確認後に在宅隔離開始となった。
 検査には、地域の病院が協力した。桃園醫院(国立病院)と長庚醫院(企業立の民間病院)だ。桃園醫院は25人、長庚醫院は56人の検査を対応した。検体採取は朝方までかかったが、早朝にすぐPCR検査に着手し、3月22日昼過ぎには81人の結果がそろった。全員陰性だった。

 クラスター調査の結果、接触者計142人のうち検査が実施されたのは100人で、全員結果陰性。隔離された人たちの中からも発症者はおらず、全員期間満了後に隔離解除となり、入所者たちは無事元の施設に戻った。台湾のクラスター調査では、感染者の過去14日間の行動歴や接触歴を調べて感染源を探すのだが、この事例は感染源不明のままとなった。しかし、彼女の周囲での二次感染はなく、孤発例で終わった。

 最初の発表に私はもちろん一瞬ヒヤッとしたが、政府の理路整然とした対応と説明のおかげで、冷静に事態を見守ろうという気持ちになれた。感染者となった看護師に対しては、発熱後にもかかわらず出勤していたことを責める世論もあったが、政府の迅速な対応のおかげで彼女への批判は一過性で終わった。

 施設を守るべく、政府は最速で動いたと思う。感染症対応はスピード勝負。関係者はブラックな働き方をせざるを得なかったが、台湾社会は救われた。現場で睡眠を削って動いてくれた人全員に感謝したい。

(参考)欧米での感染拡大に伴い、3月中旬から海外流入例が増えていたが、国内感染例は限定的であり、感染源が明らかな例がほとんどだった。

0322までのグラフ_31話

(追記)
介護施設居住者の隔離が必要な場合に備え、全国に129施設(1,286室)を確保している。6月2日発表資料より。


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