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第24話 在宅隔離の支援策 ~キーワードは思いやり~

2020年3月1日

 新型コロナ対策本部である中央感染症指揮センターは、2020年2月23日に在宅隔離者や在宅検疫者を支援するための計画(「地方政府居家檢疫及居家隔離關懷服務計畫」)を発表した。コロナ感染拡大に伴って、各地での在宅隔離/在宅検疫人数が増え、地方政府がその実務を担当していた。2月20日に中央感染症指揮センターは各地方政府と現行の課題を共有し、22の地方政府に「居家隔離及檢疫關護中心」(直訳すると、「在宅隔離及び検疫ケアセンター」)設立を指示した。期限は3月1日。それまでに地方政府は在宅隔離者と在宅検疫者向けの専用窓口を開設し、対応体制を整えなければならないことになった。

ここで用語を整理しておこう。
①「在宅隔離」は感染が確認された人と接触した人が対象。
②「在宅検疫」は感染症危険情報レベルが最も高い地域への渡航歴がある人が対象。
 いずれも政府の指示により、一定期間は住宅やホテルから出られず、守らなかった場合は強制的に隔離されることになると。「個人の生活」という意味では大差はない。要は外出禁止、ということなのだから。

 台湾では、感染症発生時の隔離や検疫は法律で定められており、政府の指示に従わない場合には厳しい罰則も規定されている。一方で、確実な実行が伴うためには、隔離者への各種支援が必要であることは2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験から学んでいた。

 この窓口の設立により、隔離者は困ったときは24時間いつでも相談できるようになった。(これまでも相談可能だったのだが、その対応能力が地方によって差があったので、課題になっていた。)医療機関の受診手配、食事やゴミなどの生活支援、は日常を過ごす上では不可欠だった。また、透析など定期的に治療を受けなければいけない人にも確実な援助ができるようになった。住まいのない人に対しては、地方政府が宿泊場所を手配することになった。

 実際に、3月1日時点で予定どおり全部の場所でサービスが始まったのかまでは確認できなかったが、報道では窓口開設のニュースがときどき流れ(2月26日彰化縣、2月27日台中市など)、気づいたら22カ所の情報が台湾CDCのホームページに掲載されていたので、おおむね計画通りに進んだのだろうと思う。

 運用のほどがどうなのか、評判がどうなのか、そこまでは把握できていない。22カ所あるので、その土地の首長や担当者の手腕に依る部分も大きいだろうと想像している。形だけではないと信じたいところだが。

 ただ、この取り組み自体は評価できると思っている。コロナ対策の陣頭指揮を執る陳時中部長(厚生大臣)は、隔離には「思いやり(關懷)」が必要だ、とそれまで何度も説いていた。彼の言葉はそのまま政府のコロナ対策のポリシーであり、政府の考える「思いやり」を形にしたのだと私は感じた。そして3月中旬以降の在宅検疫者/隔離者の急増に台湾社会が持ちこたえられたのは、先手を打って陣地を整えていたことが大きかったと思う。

 累計9,308人に達した在宅隔離者(5月29日時点で感染者数累計442人)は、期間満了で順次隔離解除とされ、5月には新規国内感染者ゼロの日が続いたため5月25日にとうとう在宅隔離者ゼロとなった。
 在宅検疫者は5月25日時点で累計138,254人。ピーク時は5万人以上が同時に在宅検疫を行っていた。5月29日現在、台湾では「入国者=検疫者」というルールが維持されているので、在宅検疫者がゼロになる日はまだ遠いが、その日まで粛々と制度が運用されていくだろう。

 今の台湾の制度下なら安心して在宅検疫ができるだろうからいつ帰国してもかまわないと思っているのだが、残念ながら私の目下の問題は、長い休みが取れないことだ。

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