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第13話 イタリア帰りの家族

2020年2月6日~2月9日

 2002年2月上旬、ある家族のコロナ感染が発表された。概要は以下: 

 台湾北部在住の50代夫婦と20代の息子2人の4人家族。
 1月22日に家族でイタリアへ旅行に出かけた。夫は1月26日に咳が出現。妻は1月28日に咳が出現。息子2人は症状なし。2月1日に帰国。往路・復路ともに香港で飛行機を乗り継いだ。
 夫は入国時に発熱あり、その日のうちに医療機関を受診。風邪と診断されたが、改善ないため、2月4日再診。肺炎症状あり、検査実施。2月6日に新型コロナウイルス肺炎と確定診断された。
 妻は咳が持続するため、2月3日に医療機関を受診し、風邪と診断された。2月4日に夫が検査対象となったため、一緒に検査を受け、2月6日に確定診断に至った。
 息子2人のうち、長男は遅れて発症。次男は無症状。両親が確定診断となったため、検査を受け、2月8日と2月9日にそれぞれ確定診断となった。

 2月9日時点のイタリアは、コロナ感染者数はまだ累計3人で、全員が中国渡航歴のある人間だった。ヨーロッパの他の国々も同じような状況であり、このときイタリアで感染が広がっているとは誰も考えていなかった。台湾政府も、香港での乗り継ぎ時に感染したものだろうと推測した。
 私自身は政府の見解を知り、「乗り継ぎの空港でも感染するリスクがあるなんて、、、」と空港という場所が感染リスクの高い場所なのだと捉えた。

 2月末のイタリアでの爆発的な感染拡大を受け、この家族はイタリアで感染した可能性が極めて高い、と台湾政府は後日見解を修正した。(私も自分の認識を修正した。) 

 今振り返ると、このクラスター発見には2点の意義があったと思う。

 1点目は、実は、この家族の中で最初に診断された男性は、この当時の台湾政府が設定していたコロナ通報対象条件には、厳密には当てはまらなかった。しかし、診療した医師がコロナを強く疑い、政府の担当部署に相談した結果、検査実施に至った。現場の専門家を尊重した柔軟な対応が感染発見に繋がったのだ。

 2点目は、イタリア政府の対応だ。台湾政府は、国際保健規則(IHR)に基づき、コロナ感染例について全てWHO(世界保健機構)へ報告している(注)。この症例発生については、もちろん、イタリア政府にも共有された。イタリア政府がこの情報を受けて、具体的にどんな対応をしたのかはわからないが、もしかしたら、コロナ感染拡大を早期に発見するチャンスだったかもしれない。

 「もし」の話は想像の域を出ない。しかし、今回のコロナ禍から学びを得るためには、今後の検証が必要だろう。

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(注)国際保健規則(International Health Regulations; IHR)は、世界保健機関憲章第21条に基づく国際規約。
 国際的な公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern; PHEIC)を構成する恐れのあるすべての事象を対象とし、各国においてPHEICに関する評価を行ってから24時間以内にWHO(世界保健機関)に通告する義務を加盟国に課している。
 台湾はWHO加盟国ではないが、自主的にこの規則を遵守し、国際社会の一員として世界保健を守る義務を果たしている。

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