見出し画像

マッチングアプリで出会った人と3ヶ月で事実婚するまで#14 〜2ヶ月目の悩み〜

交際を開始して1ヶ月目の悩みは、生活リズムの乱れだった。
彼に会うことで体調を崩してしまう自分が、関係を制限しているようで自己嫌悪に陥ってしまったのだ。
結果としてお泊まりは土日だけとなり、帰宅や消灯の時間を守ることである程度の解決をみた。

2ヶ月目の悩みは、わたしたちの違いにわたしの心がミシミシと音を立てて歪んでしまったことだった。


わたしたちは、自分たちでも驚くほどに共通点が多かった。
身長も、(当時は)体重も、もちろん年齢も、骨格ウェーブも、好きな色も、趣味も、笑いのツボも、金銭感覚も、太りやすい体質も、毛量の多さも、奥二重も、汗っかきも、突然歌ったり踊ったりしだすところも、長い期間病気と一緒に暮らしていることも。
1ヶ月目に共通点を見つけることができたなら、2ヶ月目は違いを見つけることが増えてきた期間だった。
その一番大きな違いが、”思考”だ。

わたしは自己肯定感が低い。
3年ほど前から改善のための努力はしてきたけれど、その歩みはカタツムリより遅い。学生時代は勉強に固執し、社会人になってからは無事都合いい女の地位を確立した。ちょっと難のある男を無碍にできないので、レイプやストーカーに近い行為を受けたこともある。
今年1月に彼と出会ったマッチングアプリに登録する直前にも心が折れて、今一度自己肯定感を上げるという固い決心をしたところだった。

自分でも努力はしてきたつもりだ。
けれど彼はずっと先を歩いていた。
彼自身も学生時代に自己肯定感の低さに悩み、たくさんの書籍や考え方に触れてきた。その結果、あるとき何かを悟ったように自分のことが理解できたという。

彼の世界はすごくシンプルだ。お腹が空いたらご飯を食べればいいし、眠たくなれば眠ればいい。やりたいことがあるならやればいい。お金がないなら働けばいい。

彼の感情と自分自身の意識は基本的に紐づかない。
彼は何か感情を揺さぶる出来事が起きても、それにダイブするか今は切り離しておくかを選べるとか(ただわたしが絡むとそうはいかないらしく、食事がとれなくなったり頭を掻きむしる姿を見たことはある。しかし回復はめっぽう早い)。

自分の体はモビルスーツのように、自分の脳のどこか1番奥のところで自分を操作している感覚がある。自分の人生さえもどこか他人事のように見ている自分がいるのだそうだ。


片やわたしの世界は複雑で繊細だ。人に何かを言われたことで眠れなくなることはよくあった。わたしを操作しているものは他ならぬわたしの脳細胞だ。感情の機微に耳をすませ、振り回されることをむしろ少し楽しく感じられるようにもなった頃だった。
わたしたちはすごく似たもの同士であるがゆえに、この違いにわたしが苦しくなった。
わたしは女性でもっと感情的な生き物だし、持っている心の病気も感情に振り回されやすい。そんな言い訳をしてもあまりある嫉妬心だった。



この気持ちが爆発してしまった夜がある。

先日の福岡旅行前に実家に数日帰省していたら少し体調がよくなったので、旅行で消耗した体を再度立て直すために次の週も実家に帰っていた。

その日初めて、同棲に対してネガティブな感情を持った。
週2日の勤務すら身体をすり減らして退職した少し前の自分。週末の2日間彼と過ごすことでいっぱいいっぱいの今の自分。
3ヶ月以上経つのに何もよくならない。
仕事を辞めても何も変わらなかったように、一緒に住んでも何も変わらなかったら?今までは1人だったから失敗しても誰にも迷惑をかけなかったけれど、今度は彼に迷惑をかけてしまう。
そう思って、一緒に住むのが正しい道なのかわからなくなった。


「考え事をしている」とだけ伝えてあって、その夜彼と電話をしていた。
実家で話を聞かれたくなかったので、夜8時に近所の公園を歩きながら。

わたしが言い淀むと、彼はいつもそれを聞きたがる。
だから初めて同棲が怖くなったことも話した。そして、年始に感じていたように今の自分がまた嫌いだということも。
彼はマネージャーという仕事の性質上、その人の問題を掘り下げて分析するきらいがある。そのときはそれが少しだけ嫌だった。
思い通りに動かない身体、理想に全く近づけない自分。彼の質問に答えて今思っていることを全部言った。

その頃、彼は決まって先に書いたような彼の思考の話をした。自分はこう考えている、こういう感覚がある、そんな話。
そんなことを言われたって、わたしは彼に近づく方法を知らない。彼のようにたくさんの書籍や考えに触れるには長い時間がかかって、今のこの苦しさをどうにかできるわけではない。しかも、彼と同じその考えを手に入れられるかはまた別の問題だ。
届かなかった。彼にとって意味のないことでくよくよと悩んでいるようで悔しかった。

第一、この人は当事者じゃないからそんなことが言えるのではないか。
頭痛や腹痛に見舞われたとき、つらくて他のことが疎かになってしまうのは誰でも経験するけれど、過ぎてしまえば忘れてしまう。つらそうな同僚に気遣いはできても、それを本当に理解してあげることはできない。
彼が今までどれだけの苦悩を抱えてきたのかは想像できないほどだったとしても、それは過ぎた話だ。同じ思考の渦に巻き込まれたときに同じことを言われて、果たしてそれは彼にとっても有益な話として受け取れるのだろうか。

わたしにあった感情は、ただ、嫉妬だった。
いつも同じ目線でいてくれる彼に、唯一抱いていた嫉妬。
「自分の考え方を、それは確かにすごい考え方だからさ、そう考えたらすごく落ち着いて生きていけそうなのはわかる。わたしのこと思ってそう言ってくれているのもわかる。
可能なら、もう少しわたしの考えも尊重してくれると嬉しい。自分が劣った人間に見えるときがある。」
電話の後そうLINEして眠った。


朝起きると彼から夜中に連絡が入っていた。

「たまたまこんな時間に目が覚めちゃったので、少しだけ寝ながら考えてたことを書くね。
多分僕の話ってこなにとっては何度もいままでもトライしてきたことで、だからこそそれを聞くたびにできていない状態を否定されてるような、そしてできないのはきっと僕の考えは僕が恵まれているからできるもので、自分にはそのまま当てはめられないものだからだ。
それを『この人はわかってない』って気持ちになって嫉妬のような憤りに繋がるんだろうなと思った。

多分本来僕がペラペラ喋っちゃったようなことってこなにいう必要はなかったんだ。だってそれは僕はこう生きる、っていう価値観でしかないから。

こなに伝えるべきは
『あなたが自分を好きになれない時も、辛い時も、どんな時でもあなたを世界で一番大好きでいるし、僕はこながどんな調子の時でもずっと幸せだし、笑顔でそばにいるからね』
っていう、ただ一番伝えたかったこの言葉だけだったんだろうなって。

こなが今僕に言えてないこと、たくさんあるのはわかっているよ。
あなたのとっても優しくて、臆病で、繊細で、いろんなことを想像できちゃう賢いところをずっと見ているから。
すぐに言わなきゃなんて思わなくてもいい。かさぶたを剥がすみたいに、少しずつ、少しずつ教えてくれればいい。

僕は自分の体をモビルスーツみたいなものだって言ったけど、僕は今はこなにとってのモビルスーツになれればいいなと思っています。」



比翼の鳥。
古代中国の伝説上の生き物で、1つの翼と1つの眼しか持たないため、雄鳥と雌鳥が隣り合い、互いに飛行を支援しなければ飛ぶことができないという(Wikipediaより)。

彼がよく使うこの言葉には、彼がわたしと一緒にいると決めたときからこの感覚があったことを表現していた。
わたしはそれをうまく理解できず、同じように人と比べて自己嫌悪に陥っていた。

わたしたちの単位はもう1人ではなかった。お互いはお互いの一部で、2人ならその弱さを庇いあえる。だから弱いところがあったっていい。
彼の長所とわたしの長所、掛け合わせれば1人では行けなかったところまで歩いていける。
それが、2人でいるということだ。


正直、この考えがきちんと腑に落ちるまで数ヶ月かかった。
それでも、彼がわたしの複雑で繊細な世界をできるだけ尊重して、一番大切なことを粘り強く伝えてくれたから、わたしは彼の考えに嫉妬することはなくなった。

今のわたしは彼をChat GPTのように役立てている。悩んだことや考えたいことは彼に話してみると、わたしの頭では思いつかなかったアイデアや思考をもらえる。普段の生活を見てもらっている分だけ、AIよりずっとわたしらしい答えが出てくるから面白い。

最終的にわたしたちのこの違いや相談事はポッドキャストにした。わたしの問いや悩みに彼の答えを求めつつ、2人の考えるプロセスの違いを見つけられる番組だ。
偶然に聴いた誰かの心が少し軽くなったり、いつか子どもにわたしたちが悩んでいたことや考えてきたことを素直にみせられたらいい。


わたしたちは、2人で生きている。


いただいたサポートは生活費に充てさせていただきます。