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小澤メモ|HELLO PANDA|パンダのこと?

22 チンさんとの再会 その1。

成都の基地で働くチンさん。
アドベンチャーワールドで暮らすパンダたちのふるさと、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地。といっても、浜家の元祖ともいうべき永明は北京の動物園生まれだし、2代目グレートマザーの良浜はアドベンチャーワールド生まれだったりする。その後、長男・雄浜を筆頭にした浜家印のパンダたちは、当然アドベンチャーワールドで生まれになる。だから、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地どころかパンダの母国・中国が、ふるさとっていっても、当人たちもピンと来ないかもしれない。いやいや、個体のDNAの神秘、ゲノムに由来する本能で、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地をふるさとだとわかっているかもしれない。どちらだったとしても、そのツートーンな体毛や説明がつきにくい可愛い行動をたくさんする不思議な生き物のパンダだから、自分は納得してしまうだろう。そして、彼らはどこにいたって、マイペースに竹をむしゃむしゃ食べながらパンダ座りをするに違いない。そういうおおらかさとか強さ(タフ)とか不思議さに憧れる。とにかく、アドベンチャーワールドで暮らすパンダたちにとって、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地をふるさととするべきか、アドベンチャーワールドをふるさととするべきか。

成都でもアドベンチャーワールドがある白浜でもチンさんと会った。
これについては、拙著『HELLO PANDA』シリーズを刊行するときに、だいぶ頭を悩ましたのだった。編集部はじめ広報の方たちとも相談した。世界中のパンダ(ゲノム)のふるさとは中国(四川省奥深くの山あいと書いてもいいけれど)なので、そのままふるさとと表記してもいいのではないかというところに落ち着いたのを思い出す。ただ、海浜や陽浜、優浜が中国へ行くことになったときの表記と、それに伴う家系図においての、先に中国へ行った兄弟たちの表記について、どうしたものかということになった。『HELLO PANDA』の草稿では、中国をふるさという共通認識のもとに、~海浜たちは中国へ里帰りすることになった。それで~という表記にしていた。しかし、広報の方と校正時に話したら、「やっぱりアドベンチャーワールド生まれの子たちだから、里帰りというとなんか違う気がするね。たしかに繁殖のためにパンダのふるさとへ里帰りするんだけれども。さみしいよね。うーん、どうしましょう?」ということになった。そして、「出国というのも違うイメージになってしまいますしね。帰国といっても、初めての中国ですし……。さよならというと、もっと遠いものを感じてしまいます」。そんなやりとりをした後、「中国へ旅立つ」という表記でいこうということになったのだった。

ブリーディングセンターのバックヤードで再会したチンさん。
これにより、拙著『HELLO PANDA』シリーズでは、(アドベンチャーワールドのパンダたちにとっては中国をふるさと、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地を実家とするのではなく、パンダの繁殖の希望たちの)旅立ちと表記していくことになった。そして、彩浜が生まれたときに製作した『HELLO LITTLE』では、アドベンで生まれたどのパンダも赤ちゃん期に必ず過ごすアドベンチャーワールドのブルーディングセンター屋外運動場のことを、「実家」(生家的な)と表記したのだった。それで、やっと登場するチンさん。彼女は、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地の赤ちゃんの繁育施設で働くエキスパート。月亮産室のスタッフだ。成都へ撮影に行ったとき、直接会って話を聞いてみたい人がいた。それは、世界中のパンダファンのSNSなどにもよく登場する(パンダピアやいろいろなアカウントからの盗用と複写されたものも含めて。ちなみにHELLO PANDAのポストからもたまにやれているけれど)スタッフで、メイさんという方だ。直接飼育ができる2歳前後までのパンダたちが、メイさんに突進していったり、足に絡んだり、仲間のように戯れたりするシーン。これらを見て、メイさんが発しているパンダが感じるプロフェッショナルな安心か、パンダ的フェロモン?が、一体どういうものなのか本人に聞いてみたかった。

メイさんの同僚であるチンさん。
そして、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地の月亮産室のバックヤードで念願のメイさんに会うことができた。忙しい中、時間をもらって取材させてもらった。そのときのことは、拙著『HELLO PANDA CAKE』に詳しい。そのときもSNSで見まくって感じていたメイさんの、パンダなみの不思議さをまざまざと見せつけられた印象的なシーンがあった。それはバックヤード側から、屋外運動場で遊ぶパンダの赤ちゃんたちを回収しているのを撮影していたとき。1頭のパンダが高い木(アドベンチャーワールドの運動場にある木の10倍以上)に登ったまま降りて来ない。その木は成都特有の細くてノッポ。到底、スタッフがよじ登っていけるような頑丈さはない。誰が呼んでも無反応。下でおやつをチラつかせても無反応。(まだまだここにいる。ここは最高だ!)って思っているようなワンパクさん。こちらは、(こうなったら、どうなるのかな)と、率直に心配になった。回収できない赤ちゃん(まだ成体と比べて虚弱と思われる)を、そのまま放置しておくのも、人工飼育下だと何かと問題にされそうだ。それでなくても、世界中から注目を常に集めているパンダと、そのアイコン的施設。人工飼育に対しての様々な意見が飛び交う昨今のSNS上で、あることないこと書かれかねない。これは本当に骨が折れるところ。実際に行けばわかるけれども、スタッフたちは、自らの生活をパンダ中心にして愛情と公共性、そして信念を持って、この仕事をしている。とにかく、このときのメイさんはすごかった。(その2へ続く)22
(写真は成都ジャイアントパンダ繁育研究基地の月亮産室でのメイさんとその奥にチンさん。これは何頭目かの回収の後の1コマ)

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