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小澤メモ|NOSTALGIBLUE|思い出は青色くくり。

2 たまに思い出すこと。

しめきり作業。
雑誌や書籍作りでは、あとは本が出来てくるのを待つだけという瞬間を校了という。店頭に並んでからが本番というか、どれくらい手に取ってもらえるか、どんな反響があるか、プロモーションも含めて本の旅に終わりはない。ただ、その本の内容をフィックスさせるゴールは、その校了となる。残念ながら、社会人になってから、この仕事しかやったことがない。なので、常に校了というのに関わってきたのだけれど、(当たり前だけど)一度もその日をオーバーしたことはない。この日本の数多ある出版関連とそれに関わっている多くの人が、同じように校了を(なんとか)無事に乗り切っている。そういうギリギリのしめきり作業を毎晩どこかで誰かがやっている。そういえば、パンダの本のしめきり作業で一番難しいのが、パンダのクレジット確認。

パンダ本のしめきり。
野生のパンダは別として、飼育下にある個体には名前がつけられ、公表されている。それは、どの血統なのかをわかりやすくする意味でも重要だと思う。ファンにとっては、より一層、個体それぞれを認識し、愛おしく感じることができるだろう。動物園によっては、(非公表で動物それぞれに名前がついていることはあるけれど)例えばサル山のサルたちやシロクマなど、パンダ以外の名前は共有されていないところもある。そういう動物は、より良い写真だけを求めて掲載だけでいいから安心だ。パンダはそういう部分でも、希少種でありスペシャルなところがある。こちらとしては、人物名と同じで、名前を間違えるような失礼があってはいけないから、神経を使う。雑誌ではキャプズレ(写真とその名前などの説明がズレていること)という、残念なミスが起こることがある。この人為的なミスがないように、校了前はチェック、チェックの繰り返しになるのだった。

チェックとチェック、とチェック。
編集部や校正さんとのチェックはもちろん、関係各所、動物園側にもチェックしてもらう。もちろん、どれがどの個体か、わからないことは少ない。だけど、とても良い絵で、とてもかわいいのだけど、どっちがどっちかわからない、という写真がある。これはあかちゃんパンダの場合が多い。しかもそれは、(国内では近年だとアドベンチャーワールドの桜浜と桃浜)双子や、中国の同じ年生まれのあかちゃんを一緒に育ててる写真だ。名前を断定するのが難しいからといって、掲載するのをやめるのはナンセンス。やっぱりベストだと思う写真を届けたい。だけど、てきとうにはできない。さらには、校了の瞬間を超えて、紙に印刷してしまったら、もう修正はできない。ということで、パンダの本(これまで4冊つくったけれど)のしめきり作業では、パンダのクレジットに神経をすり減らし眠れぬ夜を過ごすのだった。付け加えると、クレジットは合ってて当然。本になったときに重要なのは、写真そのものとか、かわいさや既視感のなさ、ページネーションと構成などが、良いかどうかだ。まあ、これはどんな本についても言えることだけれど。言いたかったことは、関心がない人から見たら、黒と白でモフっとしててどれもかわいいしどれも同じに見えるけど!?っていうパンダは、実はそれぞれ性格が違ってて、ディティールも表情も個性があるということ。そして、関心がある人々は、みんなそれをしっかりとわかっているということ。校了して無事に本が並んだときは、喜びと同じくらいにドキドキしているのだった。ちなみに。名刺交換したことある仕事相手にも、また名刺を出しながら「はじめまして」と言う、オッサンだ。それもけっこうな頻度で。つっこまれても、悪びれることなく、「失格ですね」と返してしまうオッサンだ。顔と名前をなかなか覚えられないのに、パンダだとそうじゃない。それがまた笑える。失格だ。
(写真は校了日付変更線を超える時/2014)

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