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政次の手紙#04

文次殿

梅雨いまだ真に晴れず、悪熱烈しく内地ですらしのぎがたき折柄、御地は定めて炎熱焼くが如く、悪水と毒虫等の禍にて、層一層難儀のことと存じます。

5月27日御発送の手紙を6月22日に受け取りました。万年筆(5月24日空便送付)および、第三回慰問袋(6月13日発送)は到着致しましたか。日頃、熱心なる努力の結晶が現れて下士官候補生の組に抜擢せられたる事はこのうえもなき慶賀に堪えぬ次第であります。目下、本部付近にて集合教育を受けられている事と思いますが、秀才の中に加わり人に負けじと勉強せられる実績は目に見るように覚えます。随分ヒドイ訓練が行われる事でしょうが、身骨の続くかぎり一死奉公、至誠必通天の決心をもってますます健康を保持し、もって優秀なる成績をあげ、最後の勝利を得て初志を貫徹し、進んで上級の学校に登校せられん事を切に切に希望する次第であります。

時局はますます重大化し、いまや仏印国境英領関係等、多事多様、この秋、我が兵力に故障あるやたちまち和平に向かえる支那一円を再びいかなる動乱を醸すや一大事の時期かと考えます。この際、君らは新兵器、新策戦術、化学戦術等あらゆる兵力の先端を走り、その要領を得、自分だけのみならず、後者を教育するだけの資格を備え、君国のため極力奮闘せねばなりません。

内地(地方)は昨年カンバツで困り、また本年も雨のないので心配していたが、数日前、二、三回の大雨にてもはや満水田植えも障りなく済み、皆々安心の色をあらわしています。

国内情勢もますますと引き締まり、本朝の新聞にいよいよ発表せられた豪奢品ぜいたく品などの製造販売を制限禁止を実施せられる事になりました。万事、かくの如くにして銃後国民としては長期に堪え、征途の将兵に不自由を見せぬよう大なる心構え、否、実りに着いている難有き御?【※1】だ。兵隊さんも非兵士(国民)も同様に不自由して困苦を共にし、国家の興隆を謀るのであります。

倉元太助、西野吉助、魚住、田中博等海軍へ入団致しました。家内は一同、達者。決して心配無用。

目下、集会教育をうけておる関係上、教官上長の人へ依頼状等必要のあれば氏名を知らせください、差し上げますから。最近の状態をお知らせください。では体を大切にご健康を祈る。

昭和15年7月6日

【※1】解読不明

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