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【連載小説】秘するが花 13

室町殿 2

 室町殿は、よく、この時の夢をみる。
 夢の中でなら、父と一緒にいられる。
 そして、この夢から醒める度に、
 室町殿の中で怒りの焔が燃える。
 自分をこの世で一番愛してくれた父。
 尽きぬ絶望の中で死んでいった父。
 父を絶望させた
「なにごとか」
 への怒りの焔。
 
 室町殿は、
 父から授かった「春王」の名を封じた。
 北朝の帝から頂いた「義満」を名乗る。
 父の怨みを晴らした時に、
 その時にこそ、
 再び、春王になろう。
 室町殿が
「室町殿」
 と称するのは、
 父を
「最後の鎌倉殿」
 とするためだった。
 
 室町殿は、
 自分が高ぶっていることに気づく。
 此処は、
 花の御所とも呼ばれる、室町第。
 見上げると、
 雨上がりの夜空に、満天の星。
 新月だからこそ、
 星の瞬きがよく見える。
 明日からは満ち始める月。
 
 古人は、欠けても満ちる月に、
 死と再生をみたという。
 月の輝きは、
 星の瞬きを見づらくする。
 その月の輝きさえも、
 眩しい太陽の下では
 見えなくなってしまう。
 
 今、その太陽が、二つある。
 この時代、帝が二人いる。
 もう、四十八年も続いている。
 帝を一人にする。
 それが、室町殿の父が、
 祖父から受け継いだ悲願
 であった。
 そして、父は、
 祖父と同様に
 その悲願を果たせなかった。
 足利の悲願成就は、
 最愛の息子に託された。
 少年将軍足利義満、現、室町殿に。
 
 しかし室町殿は、
 父の真の願いを知っていた。
 だから、室町殿は、
 穏やかな春王への道を
 最短最速で歩む。
 それは、父を絶望させた
 「なにごとか」
 への復讐の道でもある。
 
 おれは「なにごとか」からも、
 自由自在になってやる。
 

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