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偶然、今になった。


真っ暗な視界の中、眉間に力が入る奇妙な感覚で目が覚めた。
朝日がちょうど顔に当たっていた。
体をよじって太陽から逃げ、天井をぼんやり見ていると家を出る時間になる。
さっきまでのゆったりしていた体が噓のように機敏に動きはじめ、何とか出発の時間に間に合わせる。
せわしなく聞こえるかもしれないが、これが何年も続いていると案外ストレスフリーになったりするから、慣れは怖いなと思う時もある。

いわゆるな一般的な仕事をしなくなって17年くらいになる。
大学を卒業して地元で就職したいと思い、何となく受けたいくつかの企業は全て受からなかった。
就職浪人かな…と思っていたら、第一志望だった服飾関連の会社から唯一の内定が貰えた。
受けたテストが偶然良かったらしく、是非うちに来てほしいと人事の方に言われて嬉しかった。
人事の方が高齢の方で、しなやかな老人(失礼かな…?)という雰囲気で、この人がいる会社で働いてみたいと当時の自分は胸が膨らんだ。
だが、入社して1年が過ぎたときにその人が退社さえることを知って、残念な気持ちになった。

当然だが新入社員の若者に与えられる仕事は汗水を垂らさないといけない仕事が多かった。
それは良かったのだけど、その他の仕事の部分で納得できないことが増えてモヤモヤしていく。
ある時、同業他社の諸先輩方とお酒の席で
「生まれ変わってもこの仕事をしたいですか?」
と聞くと
「絶対に嫌だね(笑)」
と冗談はよせと皆に笑われて、その後、得意先の愚痴を肴に飲み会は盛り上がっていった。
こんな所でこれから定年まで働くのかと思うと憂鬱になってしまい3か月後には退社していた。

そこからどうせなら30歳まで好きな事をやろうと考え、偶然アルバイト情報誌で写真の仕事を見つけ、6年くらい写真事務所に努めた後にフリーランスになった。
こんなに長く写真の仕事が続いていることが不思議に思う。
これは夢の中かな?と疑問を持つときもある。
もちろん写真業を投げ出したくなった時もあったが、振り返るとこれしかなかった。
今も請け負った仕事に対して、相手の方が満足頂いている仕事が自分にできているのか不安になるが、何とか続けさえせて貰えているのはありがたい。

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書き始めは今日の文章がこんな展開になるとは思っていなかった。
集団行動が苦手という事を書こうと思っていたけど、意図しない方向に進んでいった。
これもいいのかな?

堂島のインド料理屋の撮影が終わった後に最寄りの駅のコーヒーショップで書いている。
撮影後にインドの料理人と数か月前に別の店の撮影でお世話になったと礼を言われ
―そうだっけ…?
と思いながら話を合わせた。
店の外に出たとき建設中の高層ビルの側面を覆った布が風になびいてキレイだった。

けして自分の人生が良いものとは思っていない。
自分にあった生き方ができていれば、それで良いと思う。
偶然自分の人生は今に至っている。
たまに他の人はどんな人生を歩んでいるのか気になるときもある。

今、横をホットコーヒーを真剣に見つめながら運んでいる年配の男性が通った。
あの男性は何を思いながらホットコーヒーを見つめていたのだろう?

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