ショパンコンクール2021を聴きながら
5年に一度のショパンコンクール、第18回目となる今年は、本来、昨年行われるはずだったものだ。前回2015年も配信されていたはずだが、今年は周囲のタイムラインに多々上ってきて、この週末は種々、掛け持ちしながらYouTubeを視聴した。LIVEだったり、事後だったり。(トップバナーの画像はYouTubeサイトより拝借)
私にとって、ショパンはもっとも好きな作曲家だったのだが、CDを聴かなくなってから、少し遠のいていた。1965年に中村紘子さんが入賞したことでショパンコンクールの存在自体は知っていたが、YouTube配信され、その評判がSNSにまで溢れ出して私のところに届いたのは、コロナのせいだろう。
それにしても、20日がかりでほぼ毎日行われるコンテストは、コンテスタントだけでなく審査員の体力や気力も必要だ。最終選考ではオーケストラは同じ協奏曲を何度も演奏しなければならない。
どこでも聴けるYouTubeは有り難い。いろいろなカメラアングルで動画収録されているので、演奏の仕方などもつぶさに観ることができる。でも、現地に行けばもっと音を立体的に聴くことができたり、素晴らしい演奏に皆が固唾を呑むなどの会場の雰囲気もわかるだろう(そのようなときには集団で「ゾーン」に入っているのだろうか、脳科学的に興味深い)。私の知り合いのコアなファンは、休みを取ってワルシャワに出向いて、予選の最初から最後まで会場で聴いているようだ。
今回のショパンコンクールの予選の演奏を聴いて、演奏の素晴らしさもさることながら、懐かしい曲もあれば、まったく初めての曲もあり、19世紀のこの作曲家は改めて天才だと思った。どうしてこんな和音やメロディを見つけ出すのだろう……。神様が耳元で囁くのだろうか……。
小学校から中学1年くらいまでクラシックピアノを習っていた。当時はバイエルから始まるのが定番だったと思うが、バッハのメヌエットやら、ベートーヴェンのエリーゼのためにやら、シューベルトのアヴェ・マリアやらの後に、やがて”簡単な”ショパンを弾かせてもらえるようになる。別れの曲や子犬のワルツのあたりで、あぁ、自分には才能が無いと自覚した。まぁ、世の中には素晴らしい音の世界があることを知り、独りで泣きながら鍵盤に思いの丈をぶつけるくらいには十分な経験を得たといえる。
絵画教室も同様で、最初から遠近法を教わって子供らしい絵を描けなくなったことは残念だったかもしれないが、美しさを理解する基礎を学ぶことができた。でもやはり、美しいと感じ取り、その説明ができることと、美を、あるいは人を感動させる視覚的何かを表現することは別の営みなのだと理解した。
ピアノに関して言えば、ヤマハの音楽教室で聴音のトレーニングを受けたことによって、先生の弾くピアノの音と「ドレミ」が連合記憶となり、音楽を聴くと言語野が活性化されるようになった(←たぶん)。そのことを「絶対音感」と呼ぶということは、後に大学生になって最相葉月さんの本で知ることになるが、高校生の私は、皆がウォークマン(←当時)で音楽を聴きながら勉強できるのに、なぜ自分にはそれが困難なのかわからずに悩んだ。
私は”にわかショパコンファン”で、コンテスタントたちの演奏について批評できるような才能も経験値も無いが、ショパンコンクールではプロ中のプロから、コンテストの審査員、会場で聴き入るファンや関係者、そしてYouTubeで視聴する世界中のファン、関係記事を書く批評家やジャーナリスト、商店街の楽器店に至るまで、様々な人々が切れ目なくコンクールを支え、コンクールが終わった後も様々な形で続いていく。さらに他の作曲家の名前を冠したコンテストのみならず、音楽という広い分野で同様に、プロフェッショナルの頂点を筆頭に、街のピアノ講師からアマチュアまで、実際に演奏に関わる方々からそうでない人々まで、さまざまな楽器やコンサートホールを造る方々も含め、多数の人間が音楽という文化的営みと、それぞれの距離感で繋がっている。おそらくスポーツ業界も同様だろう。
同じようにサイエンスの世界も持続的に発展するためには、多数の方々に支えられることが必要だと思う。世界的な賞を受賞するような科学者は、その審査をする科学者がいなければ賞を得ることはできない。誰もが凄いと思う論文も、それを読む研究者がいなければ闇に葬られる。サイエンスでは、高価な機器や高額の材料が無いと進まない分野もあるため、科学者は研究費を出してくれるパトロン(例えば政府)の側を向きがちであったり、建設的な批判が為されない傾向があるが、次の世代の若い学生たちや裾野を支える方々を大切にしなければサステナブルではないだろう。
10月17日はショパンの命日でコンテストはお休み。本日からコンチェルトが課題曲となる最終選考。楽しみに見守りたい。
追記(2021.10.22)
結局、受賞者の発表は現地時間では夜中の2時過ぎまでずれ込んだ。日本では朝起きたら決まっているのかと思ったらさにあらず。ちょうど朝の時間帯には「まだ発表されていない?」というツイートがTLに流れていた。
結局、遅れに遅れて発表された受賞者は以下のとおり(ポーランド国立ショパン研究所のFacebook画像より)。
第1位はカナダのブルース・リウ氏。2位がアレキサンダー・ガジェフ氏と反田恭平氏。小林愛実氏も4位となった。日本人が上位入賞ということで、多数の記事がウェブに上がっているが、そのうちの1つのみ備忘録としてクリップ。
ちなみにブルース・リウ氏は、2016年の仙台国際音楽コンクールのピアノ部門で第4位入賞となっていたので、つまり、仙台を訪れたことがある方ね。
上記のまとめサイトにも含まれているが、受賞者発表の翌日(日付はすでに同じだが)に受賞者によるガラコンサートが開かれて、その動画も上がっていた。本当に、コンテスタントも審査員も、協奏曲のためのオーケストラの方々も、皆、タフだ……。日本時間の21日の朝、世界でYouTubeを同時に見ている方の数は6万人弱くらいに上っていた。
それにしても、今回、この一連の営みをすべてリアルタイムにYouTubeでカバーし、すぐに編集して個別のソリストの動画としても公開するなどの企てを企画し、実行に協力したすべての方々に敬意を評したい。(次のパリオリンピックも、こんなやり方で良いのでは……と思った。)
個人的には、追って演奏に使われたピアノの聴き比べを行ってみたい。ダイナミックでやや硬質の音色のファツィオリというピアノに興味津々♬(ファツィオリのサイトのトップ画像がすでにブルース・リウ氏に変わっていた!)
追記(2021.10.25)
便利なまとめサイトができていた。こちらは反田恭平さんの分。
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