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基礎研究はどのように精神疾患研究に貢献できるか?

過日、第43回生物学的精神医学会(BP)、第51回日本神経精神薬理学会(NP)の合同年会が京都国際会館にてハイブリッド開催され、シンポジウムの座長と演者を務めました。

発達障害研究最前線:細胞から臨床まで
時間: 16:40-18:40 会場: 第1会場(アネックス1)
座長: 大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科)
    内匠 透(神戸大学大学院医学研究科)
演者: 大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科)
    野村 淳(神戸大学大学院医学研究科)
            山室 和彦(奈良県立医科大学)
            古田島(村上) 浩子(東京都医学総合研究所)
            山末 英典(浜松医科大学)

このシンポジウムでは現地入りできずzoomを用いたリモートでの参加でした。発表内容は、今年の1月にEMBO Reportsに出した論文をベースにしています。

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発表の後にご質問を受けたのですが、現地の様子はビデオ撮影されていなかったのでどなたなのかわからず、ただ、声や言葉遣いから年配の男性だと感じました。「貴女は何が言いたいのですか?」という攻撃的なフレーズから始まったご質問ですが、丁寧に説明を加えました。

EMBO Reportsに原著論文を出した際に、「この論文は社会的にインパクトが大きいので、コメンタリーを書きませんか?」とのお誘いを受けて、「Science & Society」というセクションに、より一般的な総説を書いたものが先日、公開されました。

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こちらでは、子どもを持つ年齢が上昇しているということから、卵子の老化、そして精子もエピジェネティックなレベルで老化することを紹介し、自閉スペクトラム症のリスクに関して、母親よりも父親のリスクが大きいという疫学研究を取り上げ、最後に進化的な考察を加えました。日本語では先に本note記事に書いていますのでご覧下さい。

そして今週開催された第44回日本神経科学大会では、「当事者・ご家族の想いを適える精神医学研究」というシンポジウムに登壇し、「How animal models can contribute to psychiatric research?」というタイトルで話しました。

基礎-臨床連携シンポジウム 日本精神神経学会連携企画
2S10a 当事者・ご家族の想いを適える精神医学研究
時間: 16:40-18:40
会場: 第10会場(3A)
オーガナイザー: 尾崎 紀夫(名古屋大学 大学院医学系研究科)
司会: 橋本 亮太(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
            和氣 弘明(名古屋大学大学院 医学研究科)
演者: 夏苅 郁子(やきつべの径診療所)
    尾崎 紀夫(名古屋大学 大学院医学系研究科)
            大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科)
            林(高木)朗子(理化学研究所 脳神経科学研究センター)

疫学で得られた「相関関係」から「因果関係」を知るには、実験動物を用いた基礎研究が必須になります。あるいは、ヒトはそれぞれ0.1%くらいゲノムが異なるので、そういう条件を揃えて還元主義的にシンプルな系にしないとわからないことがたくさんあります。

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総合討論の際に、「すでにお子さんが自閉スペクトラム症の方に、どのように基礎研究の成果を伝えるべきか」ということが論じられました。

私は以下のようなことを話しました。

「私たちの研究成果が、患者さんの症状を和らげたりするのに役立つ訳ではありませんが、例えば父加齢がリスクとなることを一般的に啓発することは重要だと思っています。卵子の老化に比して、精子の老化については、まだまだ市民に知られていないので。」

実際、海外のメディアで取り上げられている父加齢のリスクについての記事は、女性のライターが書いたものの方が多いことを感じています。高齢の男性にとってあまり心地よくないことなのだろうと推察しますが、実のところ一般論ですが、女性は様々な抑圧を受けてきたので、なんだかな……という印象です。

ともあれ、基礎研究者は患者さんやそのご家族の方々と接する機会がまだまだ少ないので、そのことは常に念頭に置いておきたいと思います。

このシンポジウムに登壇された夏苅郁子先生の著書の中に少しだけ登場しています。



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