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ゴードン会議でトスカーナを訪れた(その3): 初日にディスカッション・リーダーを務めた

トスカーナで朝食を

合宿形式の学会では、毎日、三食、誰かとともにテーブルを囲む。自身の研究の紹介だけでなく、それぞれの国のサイエンスの状況、ときには米国大統領選の話など、いろいろなことを話す間にネットワーキングできることが有り難い。今回は早めに朝食会場に向かうことが多い(アジアの時差故)台湾国立陽明交通大学のJin-Wu Tsai先生とご一緒することが多かった。今、共著論文がリバイス中で、さらに8月末にはうちの大学院生を1ヶ月ほど派遣することも決まっている。Jin-Wuは彼が大学院生の頃からの知己で、気づいたら合併した陽明交通大学のR&D担当副学長になっており、さらに8月1日からは学長直下のSecretary Generalになったという。その途端に「朝の4時に学長から電話がかかってきて……」と愚痴をこぼしていた。きっと将来の学長になるようなキャリアパスなのだろう。

左側は台湾陽明交通大学のTsai先生、右側はシンガポールのDuke-NUSのHongyan Wan先生

ところで、いわゆる”バイキング形式”で選択肢が多いと、たぶん、ランチやディナーよりも朝食の多様性の方が広い。ありとあらゆる組み合わせが見られるのはとても興味深い。毎日、同じパターンの人もいれば、日毎に違うアイテムを選択する人もいる。私の場合はだいたい3パターン。定番のイングリッシュブレックファスト(スクランブルエッグ、ソーセージ、マッシュルームソテー)、ご当地モノとして生ハムやチーズとサラダ、あるいは食物繊維補給のためにフルーツ、ミューズリとナッツを各種のミルクでなど。イタリアのホテルの朝食会場には、甘いケーキも何種類か置かれていることが多かった。

初日の午前中、ディスカッション・リーダーを務めた

今回、自分のミッションはラボに残る学生さんのポスター発表を行うことであったのだが、初日午前中(9:00-12:00すぎまで!)のディスカッション・リーダーに選んでいただいた。GRCでは「いかにディスカッションを盛り上げるか」が中心命題のようになっており、「まずは最初にtrainees(大学院生やポスドク)」というルールが徹底している。さらに「時間厳守」についても厳しく言われていて、少し長めに質問を受け付けていたら、オーガナイザーから「ダメダメ、切って切って!」と指図されたくらい。日本ではよく、大御所の先生が長く話されたり、質問も自己アピールの時間が長かったりということを見かけることがあるが、GRCのポリシー徹底は著しい。自分のセッションの中で、同僚の講師の吉川さんがshort talkに選ばれ、立派な発表をして、多数の質問を得られたのが何より。

セッション中は撮影禁止ルールだったので終わってから記念撮影。会場がとてもさむかったので、コーヒーブレイクでは外に出て甲羅干し。
午前中全体の座長だった。こちらは前半。
こちらは午前中の後半のプログラムから午後のPower Hourまでのスケジュール。

神経発生研究分野の今

神経発生に関するGRCに最初に参加した頃は、アフリカツメガエルを用いた「神経誘導」の話や、ニワトリを用いた神経細胞分化や軸索ガイド分子の話などが流行りであったが、そこから20年の間に、中心は「神経新生 neurogenesis」や「神経発達障害モデル」などにシフトしていることを改めて実感した。大脳皮質の進化についても取り上げられることが多く、ヒトで進化が加速したと考えられるゲノム領域の機能について、マウス個体やヒトiPS細胞由来の「脳オルガノイド」を用いた研究が中心となっている。iPS細胞は、山中先生がもともと「組織適合性に問題の無い”自分の”幹細胞を作る」という目的よりも、このような分野で使われることが多い。ヒトの脳の細胞を「バイオプシー」で取り出して調べることは倫理的にも困難であるため、このようなヒトiPS細胞を用いた実験系にはメリットが大きい。
 
また、今回、びっくりしたのは「ミニブタ」をモデルとした研究が為されていること。この背景には、ヒトに近く移植臓器としても開発されていることに加えて、ブタは家畜として神様から与えられたので人間が自由にしても構わないというキリスト教文化もある。マウスも、ヒトからは遠く”下等”であることや、実験動物としては「家畜ではない」ことが問題視されること、一方で、霊長類は高次機能の解析には好まれているものの、種々の分子発生学的アプローチには、未だツールが揃っていないことも不利。チンパンジーは「ヒトにもっとも近い」ので、介入実験(脳に電極を刺すなど)はできずに、観察研究などが主体となっているが、今回、チンパンジーのiPS細胞を用いた研究をしている参加者がいたことは、今後のトレンドの方向性を示しているかもしれない。

パワーランチ

ランチとディナーの際にはベジタリアンコーナーが用意され、そこはサラダ、肉を使っていないパスタ、クスクス、コロッケのようなものが日替わりとなっている。9割以上の参加者はノンベジタリアンなので、ベジタリアンコーナーは空いているというメリットもある。普通食の方もサラダ、パスタ(肉入り)、メインの肉料理か魚料理、もちろん果物含めてデザートコーナーも充実しており、アイスクリームもあった。午前中のセッションが終わった後、長い列に並ぶ間にも研究の話が続く。

この日のランチはちょうど、午後のパワーアワーのファシリテータを務めたLinda Richards先生と同じテーブル。高校生のお嬢さんを連れて来られていた。

パワーアワー

ここ最近はどのGRCでも取り入れられているようだが、キャリアパス系のセッションとして、午後のフリータイムを利用して、初日は「Power Hour」というセッションがあり、大御所の一人であるLinda Richards先生がセッションリーダーの一人だった。ダイバーシティへの配慮がどんなときに必要だと感じたか、チームをリードする上でどんなときに困難を感じたか、などについてグループトークを行う形式。参加してみて、もっと日本の学会でも取り入れられると良いなぁと思った。

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