エラリー・クイーン「ローマ帽子の秘密」読書会レポート
2021年6月26日(土)に開催されたエラリー・クイーン「ローマ帽子の秘密」読書会のレポートをお届けします。
文責 クイーン・ファン
第一幕
コロナ禍の中ではありましたが,これまで,せんだい探偵小説お茶会に参加されてきた皆様のおかげで,本読書会も9年目を迎えて恒例のエラリー・クイーン祭りが開催されました。また,コロナ禍での開催ということで,リアルとオンラインを繋げたハイブリット読書会という趣向で行われました! このような開催形式が生まれたのはエラリー・クイーンとミステリへの愛があればこそ! まさに必然であったと思います! この場をお借りして,ご参加いただいたリアル2名,オンライン8名の皆様に心より御礼申し上げます
さて,本題に入って。本課題書は前回の「アメリカ銃の秘密」と同様に,エラリー・クイーンファンクラブ以外のミステリランキングに取り上げられたことのない作品であります。1983EQFC(エラリー・クイーンファンクラブ)国名シリーズ+1アンケート6位,1997EQFC全長編アンケート14位,2014EQFC国名シリーズ+2アンケート7位と,「アメリカ銃の秘密」よりも評価が高い作品であり,本作品もクイーンの魅力が詰まった作品であることは間違いないのですが・・・・・。
第二幕
毎回,クイーン読書会では,作品にちなんだお菓子がおやつとして出されます。今回はクイーン家にでてきた「ペストリー」または「ペイストリー」(パイ,タルト,キッシュのこと)をおやつとしました。
さて,自己紹介と近況報告(お祝いの拍手も!)を終えて読書会は本書の内容へと。
参加者の感想は以下のようなものでした。
「リチャードさんの活躍が,とにかく楽しい。警察小説ではなく純粋な謎解き小説」
「クイーンは何でも好き。何度読んでも面白い!」
「小説としての面白さに欠ける」
「挑戦状を出す割には捜査情報が開示されていない。フェアとは,いえない」
「しっくりこない。記述が曖昧・・・・・ものたりない」
「エピソードの繋がりが弱いのではないか」
「とにかく半分まで読むのに時間がかかってしまった。読者への挑戦をされても・・・」
「エラリーが主人公ではなく,警視が主人公に思えた」
「長編じゃなくて,短編だったら面白かったかも」
「手掛かりから犯人の条件が絞られる論理の気持ちよさは格別!」
「エラリーは好きなんだけれど,やっぱり警視が活躍するのは嬉しい!」
「論理が気持ちいいだけに,それぞれの手掛かりの記述が足りていないことは,逃げ腰のように思われた」
「○○の○○がまったく書かれていないのは如何なものか!」
「再読のはずなのに,劇場で事件が起きたことしか覚えていなかった」
「この犯人はフェアに指摘できるとは思えない。最後の解決編がしっくりこなかった!」
「クイーン作品の中では,他作品と比べてシンプル。面白いと思った」
「最後の犯人逮捕の手段は,これしかないかな」
「国名シリーズ一作目なのに本作品から読み始めたという人がいないこと,ジュブナイルになっていないことが,本作品の評価ではないか」
「カバーそでに書かれている人物紹介が,中の人物紹介より少ない。この中に犯人がいるのかと思ったので,どうにかしてほしかった」
「ミステリの深淵をのぞこうしましたが,深い穴ポコでした」
「リスクを最小限にするはずなのに,公共の場と時間の制約,聞いただけの毒を自分で抽出しての使用,リスキーな通路を行けると考えていることから,完璧な計画犯罪とはいえない」
「小説全体として悪い印象がないのは,エラリーが出しゃばっていないこと・・・」
「謎とキャラクターに魅力を感じなかった」
「レッド・ヘリングの使い方が成り立たないのでは」
第三幕
疑問点(ネタバレになります。読んでいない方はご注意ください)
手掛かりの帽子の記述に,「なくなったものはない」と書かれているのに実はあった。それは大きな瑕疵でしかない。仮に一つ増えていたのに気付かなかったとしても,読者への挑戦の前に記述するべきではないか。一番の見せ場のロジックのはずなのに,これではいけないように思う。
160P 「犯人は,帽子の重要性を前もって知らなかったからこそ方法はどうあれ,最初の幕間を計画の大事な要素として活用できなかったのです」からの疑問。幕間で帽子を外に捨てるということではないか。ただ,なんとも矛盾しているような感じ。
453P 見張り問題は当日にならないとわからないので,計画が不完全。出入り口には二人いるはずなのに,一方には見咎められなかったのか?
見取り図を見ると,ボックス席から楽屋に通じるような入り口がない。舞台のカーテンの裏を通ってとか? これが完璧な犯罪? 舞台の裏に出られるだけの通路を作ってしまうと容疑者の幅が広がってしまうのであえて入れなかったのでしょうね。
まさに深淵。いえ、穴ポコでしょう。
第四幕
印象に残ったキャラクターやセリフ
リチャード
リチャードの最後の手紙
251P 「眉からつららか落ちる」という表現がいい。
サンプソンとプラウティー。
ジューナ。
226P 「アイブス・ホープ」が娘?
サンプソンが「Q」と呼ぶところがいい。
ジューナって猿みたいなの?
陣頭指揮をバリバリとるリチャード警視
セリフじゃないけど読者への挑戦。
ニューヨークの海千山千のおっさん達の雄姿。
他作品との比較で,捜査をしっかりとするエラリー。
本編での人物紹介で(モーガン→どうしたらいいんだろう)が印象的。
第五幕
今回も参加者の方々にアンケートのご協力を7名の方にいただきました。ご協力ありがとうございました。(それぞれ10点満点です)
↓一昨年の「アメリカ銃の秘密」,せんだい探偵小説お茶会アンケートの平均点
↓「ローマ帽子の秘密」アンケート点数
↓「ローマ帽子の秘密」,せんだい探偵小説お茶会アンケートの平均点
低い平均点とはなりましたが,これまでのクイーン祭りの中でも,作品について掘り下げる話し合いの様子は,クイーン祭りの中でもトップクラスのものではなかったかと思いました。いろいろとお話しができるクイーン作品は,皆様に愛されていることをホストは改めて確認することができ,幸甚でありました!
終幕
ホストが,リモート懇親会へ向かう際のことです。クイーン祭りの余韻に浸っていて,ボーッとしていたのでしょう。読書会の帰りに受け取ったテイクアウトの料理を地下鉄に置き忘れてしまうという事件が起きました。その時,なんと親切な青年が電車を降りて届けてくれたのです。私は青年の姿に感動し,そして,お礼にペストリーを渡しました。エラリーもきっとそうしたでしょう。というわけで,その日のペストリーは幻となりました。ですがビールとテイクアウト料理は無事に我が家へたどり着き,「ローマ」やいろいろな話題に花が咲いて楽しく過ごすことができたのでありました!
なんと,2021.10.16に行われた「麦酒の家の冒険」でリアル読書会は60回を迎えました!
せんだい探偵小説お茶会は,コロナ禍でもしぶとくミステリを愛していきましょう!
おまけ(ホストのあれこれ)
01.「初読から3読まで」の感想
中学1年生の頃。創元推理文庫版
帽子がなくなった理由は,すぐにわかってしまい(たぶん皆さんもそうなのではないかと思います。),謎の魅力をあまり感じなかったです。そして犯人に至るロジックもあまり理解できず首をひねってしまいました(服装のイメージがつかなかったり,帽子を着用する身嗜み文化の知識がなかったりしたためと思われます。あったとしても…)。ジュブナイルの「エジプト」にビックリして感動したのに,ローマの文庫版(残念ながらローマのジュブナイルは出ていなかったのです。他に国名ではオランダ・ギリシャ・シャムは出ていました)を理解できない自分にがっかりしました。それと大好きなエラリーじゃなくて,リチャード父さんが主人公のように目立っていることにも不満を感じました。
ジュブナイルを卒業し,大人版を読み始めようと決めて,大好きなエラリー・クイーンデビュー作をワクワクして手に取ったのに,ローマには肩すかしをくらった思いだったので,しばらくクイーンではなくヴァン・ダインや乱歩をチビチビ読んでいました。また,ミステリではなく,漫画を多く読むようにもなっていました。もしかして「ローマ」ではなく「フランス」を手に取っていたら,人生が変わっていたかもしれません(結局は,クイーンに夢中になっているのですから変わっていないですね)。
その後,クイーン読破を再度目指して大学生活終盤になってローマを早川文庫版で読み,前回よりも理解できたような気がしました(解説の飯城さんがおっしゃっていた「ふだん着」と訳されていたからかどうかは忘れてしまいました)が,ファーストインプレッションの印象は拭いきれず,目出度くクイーン作品を読破しても評価は低いままでした。
2014EQFC国名シリーズ+2アンケートに答えたときには最下位にして回答してしまいました。
そして,アンケート回答後,角川文庫の新訳て3度目読了。やっと理解できたと実感することができました。クイーンファンクラブで,けして評価が低いわけではない理由として,帽子の行方から犯人を絞り込むロジックの面白さは理解できたと思いました。そして今回の読書会に向けての再読であります。
02.「4読目」の感想
長編の募集だったので,いたしかたのないところではあったのだと思いますが,長編ではなく短編であったら,素晴らしい作品になったのではないかと思いました。
物語の謎と解決の部分(なぜ帽子は持ち去られたのか。そして,どうやって持ち去られたかがわかることによって,犯人につながる)が際立たないのは,被害者の周辺事情のピックアップをレッドヘリングとして提示したのに,効果的ではなかったためと思いました。
散漫であったり,物語のノイズが効果的に物語全体に低音域のように響き渡ったりする作品も大好きなのですが,本作品はその効果が生かされず心地よくないノイズが多いと思いました(パンサーに対しての警視の指示やモーガンの恐喝の理由等)。これは初読時から感じていたのかもしれません。
解説に「エラリーずるい」と書かれていた部分についても,同感であります。どこかで「俳優とは知らなかったよ」等のセリフを語ってほしいと思いました。
解決編の部分で犯人の賢さと運の良さはわかるのですが,長編で散漫と思えるようなストーリーだと後出しのご都合主義(犯人の出演場面のタイムテーブルがないのに可能だったのはその人物だけとか,案内係が誰も入らなかったと言っているのに見逃していたとか…つまりアンフェアではと思えてしまう)に読めてしまいます。長編なのですから,犯行機会だけでなく動機も含めて後出しではなく,繋がるようなエピソードを入れてほしかったと思います。
本作は「読者への挑戦」が入ることで,エラリーは犯人がわかったということを読者に示したということになるのでしょうが,デビュー作であるためかしっくりときていないように思えます。そして本作品の反省の過程があったからこそ,ブラッシュアップされて次作から犯人にいたる手掛かりが,ある程度わかりやすく提示されるようになったのだと思います。また,本作品から「読者への挑戦」がはじまり,人々の心を魅了する国名シリーズやレーン4部作が後に続いていったのだと思います。好きか嫌いかは別にして,クイーン作品群のはじまりで,ミステリの試金石としての価値があるのは間違いありません。ただ私はクイーン作品群の中では…。
03.「ローマ帽子の秘密」を以下の点から評価してください。(各項目10点満点。10点の基準はこれまで読んで来たミステリ作品で,10点と思えるものと比較して点数をつけてください。)
プロット=(3),サスペンス=(3),解決=(5),文章=(5),パズル性(論理
性)=(7),感動・余韻=(3)
04.あなたがもっとも好きな(印象深い)キャラクターと場面と台詞
キャラ:リチャード・クイーン
場面=リチャードの手紙(475~476P)。
台詞=476Pの「いつ帰ってくるのかね。」から終わりまで。
05.推理に瑕疵はあると思いますか。
謎としてはシンプルなので推理(ロジック)の瑕疵は少ないと思います。でもフェアプレーとは言い難いです。理由は,前述したように夜会服を着て出ていった役者がバリーだけとはわかりづらいからであります。前述した「彼は役者だったのか」とエラリーが呟いていたら納得のいく読者もいたのではないでしょうか? 簡単に言えばアンフェアということです。
06.戯言
好みの作品でないためでしょうか? デヴィッド・リンチやツインピークスとの関連性(これまでのクイーン祭りでは,こじつけっぽいのですが…ありました)がまったく思い浮かびませんでした。とほほ・・・
ですが,デヴィッド・リンチの「オン・ジ・エアー」というドラマシリーズのドタバタ感には繋がるかな・・・
(参考文献)
「エラリー・クイーン論」飯城勇三著(論創社)
「エラリー・クイーン推理の芸術」フランシス・M・ネヴィンズ著 飯城勇三訳
(国書刊行会)
「EQFC会誌 Queendom」
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