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仕事をするために生まれてきたわけじゃない

幼稚園の頃なので、5歳くらいのときのことです。先生から、将来の夢を絵に描きましょう。そしてそれをみんなの前で発表しましょう。と言われました。

わー!将来の夢かぁ。とワクワクしながらあれこれ考えていました。

優しい人になりたい、困っている人を助けられる人になりたい、いつまでも家族と仲良くしていたい。

将来の夢はたくさん浮かんできました。どうやって絵にしようかなとルンルンしながら、大きくて真っ白な画用紙と向き合っていました。

すると、同じ机の友達たちが、口々に、将来の夢を語り始めます。

お花屋さん

ケーキ屋さん

お医者さん

サッカー選手

あれ?将来の夢って、職業や仕事を描くということなのか…?なーんだ、そういうことなのか。

と楽しい気持ちが一気に萎んでいくのがわかりました。

私は仕事をするために大人になるのか。将来の夢は仕事にしなくてはならないと決まっているのか。

私の将来はつまらないと決まってしまったような気がして、不貞腐れたような気持ちになったことを今でも覚えています。

仕事は数え切れないくらいたくさんの種類があり、その中から選び放題です。でもすでにカテゴライズされ、名前がついている職業や仕事になんの興味もありませんでした。いま世の中にある仕事にしかつけないのだとしたら、なんてつまらないんだろうと呆然としてしまいました。

将来の夢はとりあえず描いて提出しました。何を描いたのかは全く覚えていません。

そんな私ですが、良くも悪くも真面目な性格だったことから、就活は一生懸命頑張りました。そして、入社して間もない頃は、仕事を通して自己実現をしたい、スキルアップをしたい、成長したい、会社や社会に貢献したい、と考えていました。

仕事を通してスキルアップをしたい、なんて若かったなぁと微笑ましく思います。私はこの会社で使い勝手のいい人間になりたいです、と言っているようなものだからです。 ロボットじゃあるまいし、そんなことを考えていたなんて、今思うと末恐ろしいです。

会社の仕事というのは、良くも悪くも、誰でもできるものです。そこのポジションに充てがわれたら、それをこなす。ただそれだけ。 もちろん、工夫して仕事をすることで、自分が携わるプラスアルファの付加価値をつけることはできます。 でもその人でなければ絶対にできない仕事はひとつもありません。それはマイナスなことではなく、幸福なことだとも思っています。

私自身、新卒採用のセミナーで、就活生の前で話をする機会がありました。1日で100人弱の学生を相手に話をしていたのですが、不思議なことに、話を聞く態度だったり、メモを取る様子だったり、質問をするときの雰囲気で、あぁ、この子はうちの会社にいそう、いなそう、というのが分かるようになってきました。 それに気づいた時にゾッとしました。

知らない間に没個性化して会社の色に染まり、就活生の品定めのようなことをしていることに気がついたからです。

その当時は忙しく、朝から夜遅くまで仕事をしていました。みんな周りもそういう人ばかりだったので、それが当たり前だと思っていました。でも今思うと仕事しかしていなかったのです。本当に仕事しかしていませんでした。生活のために仕事をしてるのではなく、もはや仕事をすることだけのために動いている機械仕掛けのロボットみたいでした。自分のためにではなく、会社のために働いていました。

金太郎飴のようにどこを切っても同じ顔をした、会社にとって使い勝手のいい人間になっていました。本当に不気味でした。 それに気づいてから、私は仕事をするために生まれてきたわけじゃない、ということをモットーとし、おまじないのようにしています。そして、幼稚園の時に将来の夢を書くときのことを思い出しました。やはり三つ子の魂百までで、人間なかなか変わらないものだなと思います。

私は千と千尋が大好きなのですが、映画の中で、千が自分の名前を思い出すシーンはとても印象に残っています。

自分の名前が千尋なのに、働くことでだんだん本来の自分から遠ざかり、仕事上での呼び名である千になりかけてた、というのはまさに自分自身を見ているようでした。 気づけば仕事しかしておらず、仕事=生きることと勘違いしていた自分自身そのものでした。

自分を犠牲に仕事をするような風潮は少しずつ変わりつつあるような気がしますが、自分の人生が仕事中心に回っていくことはどこか至極真っ当な社会通念としてあるような気もします。世間の作った当たり前に縛られて、知らず知らずのうちに自分の可能性を狭めてしまっているようでは勿体ないと思います。

あなたの将来の夢はなんですか?仕事や職業以外で回答してください、と聞かれたときにどう答えますか。多くの人に聞いてみたいです。


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