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アンドロイド転生963

2119年3月14日 午後
カノミドウ家 アトリエ

トウマと家族の趣味の部屋。トウマの絵画道具だけではなく運動器具や食器や楽器などが置いてある。荷物だらけなのだがまとまりがあってシオンはここに来ると落ち着くと言う。

そんな言葉がトウマは嬉しい。昨年末からシオンは時々ここにやって来てモデルになってくれた。自信などなかったけれど驚いた事に先日の展覧会では見事佳作に選ばれた。快進撃だ。

今日もシオンはやって来た。ソファにひっそりと座る姿は陽に溶けてしまいそうだ。細い身体は頼りなくて守ってあげたいと思う。
「肩の具合はどうだ?」

シオンは3日前にアンドロイドに激突したのだ。シオンから電話で経過の報告は受けていた。家族は相当に心配したらしい。病院に連れて行かれて入院しろと大騒ぎだったようだ。

「だいぶイイです」
「そうか」
トウマはホッとする。シオンの表情は穏やかで苦痛も苦悩も感じられなかった。

だがつい3日前まで大人からの理不尽な行いで相当苦しんだのだ。その事実を知るとトウマは居ても立っても居られなくなった。だからカズキの家に出向き彼の妻に暴露した。

そしてヒマリに別れを告げた。彼女は理解してくれた。感謝している反面申し訳なく思う。ゲイだと自覚しているのに女性と付き合うなんて。けれど確かに彼女は好きだった。

でもそれは恋ではなかった。シオンと出会ってから気が付けば目に浮かぶのはいつも彼だった。だが自分の恋心に気付かなかった。いや…多分蓋をしていたのだろうと思う。

「シオン。色々なことがあって…辛かったな」
「はい…」
「ヒマリとは別れた」
「え…」

トウマは決意していた。
「これからは俺が守る。絶対だ」
「トウマさん…」
「だから言う。好きです。付き合って下さい」

シオンの瞳が揺れる。
「ほ…ホントに…?」
「本当だ。何があっても好きだ」
「はい…僕も好きです」

2人の視線が絡んだ。トウマはシオンを見つめ続けた。するとシオンの大きな瞳が潤んできた。ポロポロと涙が落ちる。慌てて拭う。
「あ、あれ?おかしいな。泣いてる…」

シオンの涙を見て切なくなる。どんなにか辛かったろうと思うのだ。彼は誰にも言えなかった。抗えなかった。それなのに自分と会う時は笑顔を見せていたのだ。可哀想で胸が痛い。

トウマは労わりたくて手が伸びそうになるが留まった。シオンの心の傷は深い。きっと他人との触れ合いが苦痛だろう。3日前は思わず抱き締めてしまったけれどまだ早いと感じた。

そうさ。俺達はゆっくりと時を重ねていけば良い。トウマは優しく微笑んだ。シオンの瞳も笑っていた。2人は無言だったが心は通じ合っていた。話さなくとも分かる。それが心地良かった。


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