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アンドロイド転生930

2118年12月12日 昼
新宿区:平家カフェ

扉をスライドすると笑顔のアリスに迎えられた。店内は清潔でいつ来ても気持ちの良い場所だ。ここはサキの親戚で同じ平家の子孫の店だ。見渡すとほぼ満席だ。いつもの事だった。

店主のキヨシが笑った。
「よぉ。サキ。快進撃だな」
サキとアンドロイドで恋人のケイは笑って頭を下げるとカウンターに着いた。

サキはお任せのランチをオーダーした。リツがフライパンを手にして作り始めた。アンドロイドが全てを行う時代では珍しい事なのだ。そんな平家カフェには根強いファンがいる。

サキは辺りを見回した。
「チアキは?元気?」
アリスがニッコリとする。
「うん。楽しそうだよ。イブには戻って来る」

そう。アンドロイドで元保母だったチアキ。彼女は上野で暮らしている。来春、幼稚園を開業するミシマ氏の元で戦略となっていた。彼女は新しい道を歩んでいるのだ。

店主がコーヒーを淹れながら頷いた。
「人もアンドロイドも動けば風が吹く。それが人生を変えるのさ。サキも動いたろう?だから変わったんだ。テレビ出演。おめでとう」

サキの作ったシーグラスのピアスは注目を集めた。平家の紋章を彫ったのが大衆に受けたのだ。お守りのように思う人が大多数だった。
「有難う御座います」

サキの瞳はキラキラと輝いた。自分も仕事がしたかったのだ。何かやり甲斐を見つけ出し、生きる意義を感じたかった。31年間、山で暮らした彼女はとにかく羽ばたいてみたかったのだ。

リツはフライパンを操りながらケイを見た。
「投資は順調か?」
「うん」
そもそも投資を勧めたのはリツだ。

リツは投資の読みが深かった。勝機のタイミングを見極める駆け引きが上手いのだ。いや。それだけではない。元々頭脳が優れていた。リツだけではなく平家の子孫達は皆そうなのだ。

近親婚で誕生し、昨今は濃くなった血でメラニン色素に弊害をもたらすようになったが、頭脳には良い影響があったようだ。頭の回転の速さと物事の道理を理解する能力が高いのだ。

だからこそキリやリョウなど自己流でアンドロイドを誕生させる事が出来るのだ。ホームから出てタウンで暮らし始めた息子のルイやカナタやシオン。高校生の彼らも優秀だった。

やがて食事が出来上がりサキの前に運ばれた。盛り付けは美しく味わいも絶品だ。センスが良いのだ。これもやはり平家の血筋なのだなとサキは思う。それが大衆に受け入られるのだ。

女性がカウンターにおずおずとやって来た。
「サキさん…ですよね…?あの…シーグラスの…ピアスの人ですよね?」
サキの背筋が伸びた。緊張しつつ頷いた。

「あの…お願いなんですけど…平家の紋章をうちの家紋に変えて彫って貰うことって出来ますか?そしたら…先祖も喜ぶかな…って思って…」
「家紋…」

サキは女性を見つめた。そうか。本人の家紋を彫って欲しい…そう思う人は沢山いるだろう。サキは気前良く承諾した。そして更に受注が増えていく。サキにまた新しい風が吹くのだ。

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