見出し画像

アンドロイド転生576

東京都中央区銀座:レストラン

タケルとエマはテーブルを挟んで微笑み合っていた。エマの仕事が始まる前に食事に来たのだ。エマが舌鼓を打つのをタケルは目を細めて見つめた。手元には純水のワイングラス。

レストランは落ち着いた灯りに包まれていた。大人達の憩いの場所で静寂だった。
「タケルさんも食べてくれると嬉しいなぁ」
「次回は是非」

アンドロイドも食事の真似事は出来るのだ。人間に寄り添う機能なのである。後で洗浄すれば良い。だがその作業はキリに頼まなくてはいけない。事前に了解を取って置きたかった。

エマの瞳が輝いた。
「今度はいつ?いつ会ってくれるの?」
それはいつでも。いつでも会いたい。彼はすっかりエマに堕ちた。18年振りの恋心だ。

「エマさんのご都合の良い日ならいつでも」
「何なら帰らなくても良いんだよ?うちで暮らしても良いの。ね?そうする?」
タケルの胸は高鳴ったもののそれは出来ない。

「私はヒモじゃありません」
「ヒモ?ヒモって何?」
「自分では仕事をせず、恋愛関係にあるパートナーに頼りきっている人を指した言葉です」
 
エマは瞳を輝かせた。
「良いじゃん!私を頼ってよ。タケルさんは自由にしててオッケー。ヒカリのとこのゲンなんてそうだよ。プレイ(性行為)してるだけ」

タケルは顔を顰めた。ゲンの事を思い出すと腹が立つ。ミオにウィルスプログラムを仕込んだアンドロイドなのだ。なんて悪意の塊だろうか。2度とゲンには会いたくなかった。

エマは声を密やかにして微笑んだ。
「私はタケルさんの彼女になったんだから、もうゲンとプレイをしないからね?あ、ゲンだけじゃなく誰ともしないよ!ホント」

タケルは苦笑する。エマは思う事はハッキリ言うのだ。性に関してもオープンだ。そこに嫌らしさを感じさせないのは人徳なのか。そんな奔放な彼女にすっかり惚れてしまった。

「タケルさん…?あのね?プレイしたくなったら言ってね。私はいつでもオッケーだからね」
タケルは頬が緊張する。そんな事は考えられない。エマを大事にしたいのだ。

エマの瞳が夢見がちになった。
「今日のキスは素敵だった…。ときめいたの。好きな相手とのキスは最高だった」
タケルも頷く。そう。俺も最高だった。

それから間もなくしてエマは食事を終え職場に行った。タケルは店まで送り、その後は歩いてエマの自宅前に置いてあるバイクまで戻り、ホームに向かった。終始笑みを浮かべていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?