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アンドロイド転生782

2118年6月7日 午後6時過ぎ
茨城県白水村:ルイの部屋

「すげぇ…なぁ…!」
カナタは眼前に浮かぶ立体画像を凝視して口をポッカリと開けていた。ルイは苦笑する。
「また見てんのかよ」

画像はビキニの水着の女性。長い脚。細いウエスト。豊かな胸の膨らみ。美しい顔は妖艶な笑みを浮かべている。くるりと背中を見せると丸い尻。砂浜を走って行く。髪が揺れた。

別のシーンに移る。浴衣を着た女性の背中。頸の後れ毛が風に舞う。女性はゆっくりと振り返り微笑んだ。頬には花のペインティング。団扇をヒラヒラとさせて舌を出す。

「かっ…可愛いなぁ…!」
「カナタ…お前は…リングで女ばっかだな」
「ルイも見ろよ!」
「俺は別の活用をしてる。お前とは違う」

約2週間前にルイの父親のタカオがサキと共に都庁に訪れて国民登録の手続きをして来た。その時に担当者は新民者にスマートリングを用意した。21人分である。タウンで暮らす第一歩だ。

タカオは帰村するとルイ達に配った。
「便利な道具だが上手く活用しろよ」
ルイ達は大喜びだった。喉から手が出る程に欲しかった携帯電話なのだ。

少年達は直ぐにリングを使いこなした。カナタはしょっちゅう女性の動画を観ては喜んでいる。
「ルイはよぉ…真面目過ぎるんだよ」
「お前がアバウトなんだ!」

シオンが部屋にやって来た。
「なぁ…ルイ。いつタウンに行く?7月〜8月って担当者は言ったらしいけど…僕はいつでもオッケーなんだけど…」

シオンは1日でも早く東京に住みたいのだ。ルイは口を真一文字にして腕を組んだ。
「七夕祭りをしてからじゃねぇ?」
「もう最後のお祭りは済ませたじゃん」

シオンはタウンに行くのがもっと早まるだろうと踏んでいた。だからこどもの日が全員で一緒に過ごせる最後の祭りだと思っていたのだ。
「サキ姉ちゃんは7月1日に行くって言ってる」

サキとシオンは従姉弟同士だ。打ち明け話しをしたのだろう。ルイは笑った。
「シオンも早く行きたいんだな」
「ルイだってそうだろ?」

ルイは首を捻った。
「どうかな?早く行きたいかな?よく分かんねえや。ホームステイって他人の家に住むんだろ。何だかそれはメンドイな」

ルイ達は学生なので独り暮らしはせずに其々ホストファミリーの家に行く。新民者に対してより寛容でルイ達を快く迎えてくれる家族らしい。だがそれでも他人だ。一抹の不安を覚える。

カナタはまた笑った。
「俺は平気だ。ルイは深く考え過ぎなんだよ!フツーにしてれば大丈夫だ!」
「まったくお前は気楽だよ」

扉が開いた。ヤマトだ。
「タカオおじさんとリョウ兄ちゃんがタウンから帰って来たぞ!土産がなくなるぞ!」
少年達は部屋を飛び出した。

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