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アンドロイド転生313

2118年2月22日 午後
アメリカ:小児医療センター

「ママ。読んでぇ〜」
ホナミは10日前のか細い声とは違った力強さで甘えた。お気に入りの星の王子様だ。キサラギはホナミのベッドに腰掛けてホログラムの文字を追った。

チラリとホナミを見る。あんなにドス黒かった顔色が白くなり、頬はピンクだ。瞳に輝きもある。ああ。娘のこんな姿を見れる日が来るなんて…!後は少しずつ肉がついてくれれば言う事はない。

ホナミは心臓移植という大手術に挑んだ。術後は高熱が続き危険な状態だった。キサラギは不安で身も心も切れる思いだった。神にも仏にも祈った。そしてホナミは勝った。勝ったのだ。

熱が下がると旺盛な食欲を見せて笑顔の花を咲かせた。何度もママ!苦しくない!と声を張り上げた。医師アンドロイドからは心臓は完璧に機能している事を告げられた。

だが他人の臓器を利用している以上、一生免疫抑制剤の服薬は必要だ。しかし娘は充分にその生を謳歌出来るしまだまだ長い道のりがあるのだ。この先も成長を見守り共に歩める事が嬉しかった。

キサラギは何度もドナーの子供とその両親に感謝した。移植という性質上、会う事は叶わない為、心を込めて手紙を書いた。ホナミも書いた。幼くても自分の回復の経緯を理解していた。

ホナミは2ヶ月間の入院を指示されていた。その間にリハビリを行い充分な体力を取り戻して帰国する。直ぐに通学の手続きをしよう。娘が憧れていた学校に行くのだ。どんなに喜ぶだろうか。

読み聞かせをしている間にホナミは眠りに落ちた。布団を掛け直して娘の顔を見つめるとキサラギは自然に笑みが溢れた。愛しい我が子の寝顔がこれからも約束されたのだ。

キサラギは病室を出た。ポケットから発信器を取り出して見つめた。どうしよう。浮かれているばかりではいられない。アンドロイドの回収車に取り付けると約束をしたのに帰国が出来ない。

数日前に警察に連絡してアランとローガンの名前を出して調べてもらったが見当たらなかった。なんでだろう?所属が分からないとダメなのか…。
「仕方がない。彼女に頼もう」

彼女とはTEラボの職員でシンドウという名だ。キサラギを回収の仕事に引き入れた同僚である。発信器を彼女に送り回収車に取り付けてもらう。それが一番いい。キサラギはシンドウに電話をした。

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