見出し画像

アンドロイド転生964

2119年3月31日 朝
シラトリ家のダイニング
(シオンのホストファミリー宅)

母親が味噌汁を飲んだ。
「離婚したんですって」
娘のマイカは納豆をかき回している。
「誰が?」

「ホウジョウカズキさん」
「へぇ…」
「カズキさんが出て行ったんだって。リエさんが追い出したらしいわよ」

マイカは笑った。
「リエさんの方が強いんだ」
「そうよ!婿養子だったもの」
「ふーん」

母親が顔を顰めた。
「カズキさんが酷い事をしたとかなんとか…」
「酷い事ってなに?」
「さぁ…?でも追い出すくらいだから相当ね」

母親は興味津々の顔をしていた。いつの時代でも女と言うのは噂話が好きなのだ。父親は朝早くからゴルフコンペで不在。また人と親睦を深める為だ。シオンは黙って卵焼きを口に運んでいた。

心の内でカズキは離婚したのかと驚いていた。確かに最近連絡は来ないし数日前にスマートリングにメッセージがあった。“申し訳なかった”と。そしてアプリが消えた。脱退したのだ。

シオンは知らないがカズキから脅迫された事をトウマに打ち明けた夜、トウマはカズキの家に乗り込んで妻の前で悪行を暴露した。夫婦はそれが元で離婚に至ったのだ。

・・・・

ここでカズキのその後を読者に報告しよう。1人になった彼は仕事も失った。リエの父親が経営する会社に勤めていたのだ。だから自分の性癖で生きる事に決めて新宿2丁目のゲイバーに就職した。

たがカズキは肩身が狭かった。中年男のデビューは遅いのだ。しかも彼の愚行が暴かれてしまった。未成年者に手を出すのは業界では御法度なのである。人から疎まれるようになった。

しかし一時期はセレブだった彼はプライドが高く殊勝にはなれなかった。どこの場所でも軋轢を起こした。彼と恋する男性など現れず寂しい晩年を送った。何事も因果応報なのである。

・・・・

シオンはカズキが消えたと知ってホッとする。だが彼がした行いは罪でありシオンの心の傷は深い。癒えるには時間を要するだろう。その傷付いた彼に寄り添っているのはトウマだった。

ずっと片想いだと思っていたシオンはトウマの告白に救われた。トウマは優しくシオンを見守り、シオンも心から慕っていた。2人は丁寧に愛を育んでいる。そう。始まったばかりだ。

マイカが白飯を咀嚼しながらシオンを見た。
「桜が綺麗じゃん?彼氏とお花見行くの。今日。シオンは?何するの?」
「僕も行くんだ。トウマさんと」

マイカは笑った。
「2人は仲良しだねぇ!あ!そうそう。シオンの絵が佳作だったんだって?凄いじゃん!」
正確にはシオンを描いたトウマの絵だ。

シオンが絵のモデルになった事で2人が頻繁に会っているのはマイカは承知だ。だが家族は彼らの恋には気付いていない。現代は男女問わずの恋愛は推奨されているが報告は出来なかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?