見出し画像

アンドロイド転生838

2118年7月30日 午後7時
東京都葛飾区:カガミソウタの邸宅

ソウタはベッドで布団にくるまっていた。恋人でアンドロイドのスミレは覗き込んだ。
「具合はどうですか…」
「う…う…ん。苦しい…」

スミレはソウタの額に手を当て測った。即座に分かる。体温38.5℃。かなりの高熱だ。2日前からソウタは風邪を引いて寝込んでいた。科学が発展しても風邪は薬では治らない。

「…何か召し上がりますか」
「う〜ん…食べたくな〜い」
スミレは溜息をつく。細身のソウタは益々痩せてしまう。これでは風邪も治らない。

スミレは閃いた。
「平家カフェで作って頂きましょう!」
現代はアンドロイドが調理をする社会だが、平家カフェは人間の手作りに拘っていた。

「リツさんならソウタの好みにアレンジして下さいます!ね?如何ですか?」
平家カフェのリツはソウタの唯一の友達だ。きっと心を込めて作ってくれるだろう。

「う…うん…そうだな。お粥とか…いいな。でもリツのとこは新宿だぞ…遠いぞ」
するとソウタは何度も咳込んだ。赤い顔をして額に汗を浮かべている。

スミレは真面目な顔をした。
「私は何の苦もありません。お食事を取りに行って来ます。家に戻ったら温めます。おかずも何品か作って頂きましょう」

スミレはリツに連絡を取って、行く旨を伝えるとソウタの額を拭いて新しい冷却ジェルを塗った。
「直ぐに戻ります。眠っていて下さい」
ソウタの手に優しく触れて布団を掛け直した。

スミレは自宅から最寄駅の亀有まで歩きリニアに乗って新宿駅に着いた。35分の行程だ。それから5分程歩いて平家カフェに辿り着く。タクシーよりもこちらの方が早い。

店の扉がスライドすると店主達がスミレに笑顔を向けた。スミレも微笑んでカウンターにやって来た。リツは眉根を寄せた。
「ソウタさんの具合はどうだ?」

スミレは残念そうな顔をした。
「かなり熱が高くて、食欲がありません。でもリツさんのお粥なら食べたいと仰ったのです」
「うん。他にもトッピングを用意する」

リツに待っててくれと言われて、スミレは純水を差し出されるとスツールに座った。店内を見渡す。広々としており清潔だ。夕食時刻で混み合っていた。アリスとチアキは忙しそうだ。 

スミレと同じアンドロイドのアリスとチアキ。すっかり仲良くなった。嬉しかった。自分にも友達が出来たのだ。ずっと引き篭もりだったソウタと一緒にスミレも外界と断絶していたのだ。

だがソウタは少しずつ社会に溶け込み始めた。リツと親友になり、最近は散歩がてらにしょっちゅう平家カフェにも立ち寄っている。リツとアリスは恋人同士。それも嬉しかった。

食事が出来上がった。ソウタもきっと喜ぶだろう。スミレは微笑んで店を出た。亀有駅に到着するとスミレは声を掛けられた。振り向くと男性アンドロイドが立っていた。困った顔をしている。

「すみません。少し宜しいですか。あの…あちらの公園の奥から子供の泣き声がしています。迷子なのか…怪我なのか…。何故かナニーの姿が見当たりません。私と一緒に探して頂けませんか?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?