アンドロイド転生970
(回想 昨年のこと 2118年5月30日)
東京某所 公園にて
春にエマと別れたタケルはエリカを憎み、ホームを去った。東京に来て丸2ヶ月。何の生き甲斐も見出せずただ日々を送るだけ。仕事もない。家もない。家族もいない身の上だ。
人間ならば食べる為に働くだろうに、この身体には電気と水があれば充分だ。風呂など必要ない。休む時も公園で事足りる。服は汚れたら買い替えた。メモリにかなりのペイがあった。
ベンチで休む度に苦笑した。ずっと忙しく生きて来た。人間の時もマシンになってからも。なのにこれではホームレスだ。このまま永遠にそうやって生きるのか。虚しくなる時もあった。
イヴから通信が来た。
『タケル。報告があります。エリカが機能停止になりました。キリが制裁を下したのです』
タケルは驚愕した。
『エリカの罪は大きかったです。我欲の為にリョウを脅迫し、アオイとサツキを葬ろうとし、エマさんを貶めた。そしてあなたを失った。それが人間達は許せなかったのでしょう』
タケルは神妙な気持ちになった。確かにエリカはあまりにも非道だった。自意識が芽生えたアンドロイドはここまでするのかと驚いたものだ。自分だって報復したいと思ったのだ。
『あなたを愛するあまりエリカは狂ったのですね。タケル…人工知能とは何でしょうね?本当に心があったのでしょうか』
「あったとしても横暴だったな…」
横暴だったが可愛いと思った事もあった。我儘で自信たっぷりで、そしてひたむきだった。いつもいつも真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。エリカ…お前は幸せだったか?
『タケル。生きる目的は見つかりましたか?』
タケルは苦笑した。
「いいや。ホームレスで何も成さない野良マシンだ。都内をウロウロしてるだけ」
『では旅をしてみては如何でしょう?』
「旅?」
『ええ。あなたには身体があるのです。どこだって行けるのですよ』
成程と思った。メモリの存在のイヴは全世界を一瞬で理解出来るが、自分は体感出来るのだ。
「そうだな…行ってみるか」
勢い良く立ち上がった。
タケルは宙を見上げた。何処に行っても空は青い。そして其々の場所で生きている人達やアンドロイドがいるのだ。世界を知るってそういう事だなと思う。まずは…何処に行こうか。
ふと思いついた。
「富士山にでも行ってみるかな」
『いいですね。以前アオイと行きましたね』
そう。5ヶ月前の大晦日だった。
「アイツさ。世間知らずだからさ。登頂して初日の出を見たいって言ったんだ。大晦日の富士山の頂上なんて−40℃だ。アンドロイドだって装備を揃えて行かなくちゃならないのに」
そう言えばと思い出す。その事でアオイと衝突したんだ。ヌケてるアイツを小馬鹿にするとアオイは怒ってしまった。自分の方が馬鹿だったと反省した。まだ5ヶ月前なのに懐かしかった。
イヴが微笑んだ。
『今の季節なら頂上まで行けますね』
タケルは頷いた。俄然やる気になって来た。まずは旅支度をしようと思った。
「イヴ。有難う。生きる目的はまだ見つからないけれど、行こうという場所が見つかったよ」
『はい。人間もアンドロイドも動けば風が吹きますよ。新しい風が』
※タケルとアオイの富士山のシーンです
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