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アンドロイド転生915

2118年10月31日 午後
カガミソウタの邸宅 地下の一室

ソウタは土下座するゲンを見つめた。そして腰を下ろして溜息をついた。
「お前…なんでスミレを殺した?」
「マシンの頂点に立ちたかったのです」

ソウタは呆れたように溜息をつく。全く…人間もそうだけれど…どうして誰もがトップになりたいんだ?まさかアンドロイドまでもそう思うようになるなんて…バカじゃないか。

ゲンは顔を上げた。泣いていた。
「エムウェイブを使って思い通りにしたかったんです。だってボタンを押せば…たちまち機能不全になる。戦わなくて良いんです」

エムウェイブ。TEラボが総力を上げて造り出したデバイス。アンドロイド制御装置だ。それを照射すれば即座にアンドロイドの4肢の自由が奪われる。暴走を防ぐ為に。

スミレは23番目の被害者となった。動かない身体で逃げることも叶わず惨殺された。ゲンは残酷だった。4肢を折り、胴体から抜いた。そして最後に首を捻じり取ったのだ。

ソウタは心底不快な顔をする。
「お前…矛盾してるぞ。ファイトクラブでバトルにウンザリしてたんだろ?なのに動けない相手を苦しめるなんておかしいじゃんか」

ゲンの瞳がゆらゆらと彷徨う。
「わ、私は…人間に復讐がしたかった…。アンドロイドを虐げる事が許せなかったのです。だ…だから…誰かに…勝ちたくて…」

これは人間の子供にも言える事なのだが親や大人に虐待されたり充分な愛情が貰えないと満たされない思いが怒りとなって矛先が他人に向く。そうやって心のバランスを取ろうとするのだ。

2人の会話を見守っていたリツはゲンの言葉を聞いて理解した。そうか。ゲンは愛されたかったんだ。快感もないのに人間の女と寝るのも自分の居場所を求めていたのかもしれない。

土下座しているゲンが哀れに思えた。アンドロイドだって愛し愛されたい。アリスだってそうじゃないか。リツの心にゲンに生きるチャンスを与えたいと言う気持ちが芽生えた。

ソウタの瞳が潤んだ。
「俺の彼女だったんだ。家族で…相棒で…同志だった。マジで…悲しいよ…寂しいよ」
「すみません…許して下さい…」

ソウタは立ち上がって顔を引き締めた。
「いや。俺は絶対に許さない」
リツはそうだよなと思う。ソウタは恋人を失った。その辛さと悲しみは俺の比じゃない。

ソウタはホログラムを立ち上げた。ゲンのフォルダをデリートしようとする。ゲンはソウタの腰に縋った。涙をポロポロと流す。
「旦那様…ごめんなさい…!やめて…!」

ソウタの瞳は氷のように冷ややかだった。
「俺はお前の言葉なんかに騙されない」
ソウタはあっさりとフォルダーをデリートした。とうとうカウントダウンが始まった。

ゲンは悲鳴を上げてソウタを見つめた。そして床に手をつくとガックリと項垂れた。もうプログラムは動き出した。後戻りは出来ない。数字がゼロになった時、警告音が鳴り出すのだ。

するとゲンは勢い良く立ち上がった。ソウタを睨んでいた。顔が怒りに燃えていた。まるで鬼の形相だった。大きく息を吸い込むと腕を振り上げた。ゲンの拳がソウタに向かった。

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