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アンドロイド転生910

(回想)
2118年10月27日 
スオウ組事務所

「イチゴのケーキがさ!クリームもスポンジもピンクだったんだ!凄〜く美味しかった!僕、また食べたーい!ね?ね?パパ?イイでしょ?またリツ兄ちゃんちに行きたーい!」

スオウは目を細めている。ヤクザの重鎮も可愛い息子には骨抜きの状態だ。
「そうか…」
「僕は絶対夢じゃないって思ってた!」

ソラは思い出したようにリツを見た。
「あ!あの時のゲームは?セーブしてる?決着つけようよ!ね?お兄ちゃん!」
ソラはすっかりリツのファンだ。

「そうだな。またゲームしたいな」
リツは誰とでも同じ目線でいようとする。客の子供も直ぐに彼に懐くのだ。
「絶対だよ!約束だよ!」

ソラには義兄のマサヤがおり、年齢は30歳でソラとは20年離れている(スオウの本妻の息子)。スオウの願い…兄弟仲良く…は叶わなかった。マサヤは愛人の息子を毛嫌いしていた。

義兄と同年代のリツとケーキを食べてゲームをした事がソラは余程嬉しかったと見える。リツ自身も子供が大好きだし、ソラとのひと時が楽しかった。たった数時間だったけれども。

スオウとしては複雑な心境だ。息子とこの男は人質と犯人である。自分を動かす為に飴と鞭を巧みに使った。飴は爆弾取引の仲介者。かなりの手数料を受け取った。鞭はソラの誘拐だ。

息子に一切傷を付けないと言う約束は守ってくれたが誘拐をした事は許せなかった。ソラと同行したナニーのメグの記憶を消去された為どこに拉致されたのか突き止められなかった。

ソラは何度もリツや家族の事や、ケーキやゲームの話をした。自分と愛人のクレハはそれは夢だと嗜めた。だがソラは信じなかった。度々ピンクのケーキが食べたいと訴えたものだ。

スオウはピンクのケーキを調べてみた。世の中にはそんなスイーツが沢山あって潜伏先の平家カフェに辿り着く事は出来なかった。
「…ね?パパ…イイでしょ?」

スオウはハッとなった。
「うん?なんだ?」
「だから!ハロウィンパーティ!うちで!やりたいの!皆んなを呼ぶの!」 

「ママは何て言ってるんだ?」
「煩いのは嫌だって言うんだよぉ。だからさぁ!パパから言ってよぉ。お願いだよぉ」
「う…うん…そうだなぁ…」

スオウはこの状況に困ってしまった。スオウ組の代表としてこの若造達としっかり対峙してやろうと思っていたのにこんな姿を見られるとは。
「分かった。ママに言う。ソラは帰りなさい」

ソラは喜んだものの不信そうな顔をする。
「帰ったらさぁ。またリツ兄ちゃんの事を夢だとか言うんじゃない?」
「そんなことないさ…」

スオウは口元を引き締めた。
「これからこの人達と大事な仕事の話をするんだ。だから帰りなさい。ピンクのケーキはまた食べさせて貰おう。な?ソラ。さぁ帰るんだ」

賢いソラは潮時だと悟り、立ち上がるとリツ達に丁寧に頭を下げた。教育が行き届いているのだ。ソラはリツにまた会おうと何度も言ってナニーのメグと共に帰って行った。

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