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アンドロイド転生723

白水村

小高い丘の上に座ってエリカは1人、山道を見下ろしていた。アオイが降って行くのが見える。モネの元に帰るのだ。リハビリのサポートをする為に。あと3〜4ヶ月は必要らしい。

モネが完治したらアオイはその後はどうするのだろう?ホームに戻って来るのか。それともモネの元に留まるのか。だけど今の私にはどうで良い事だ。アオイの好きにすれば良い。

エリカの心境が変わったのだ。以前までは村に帰って来るなと思っていた。2度と会いたくなかった。何故ならアオイは脅威の存在だったから。エリカはアオイが恐ろしかったのだ。

タケルと同じ輪廻転生した元人間。いつか2人は恋をする。繋がると勝手に確信していた。人間の心は移ろいやすいのだ。2人もきっと惹かれ合う。そう思うと不安で堪らなかった。

だがもう…その心配はない。タケルはもういない。村を去って1ヶ月以上が経った。当初は山を探し回った。だが見つからない。応答しない。イヴもキリも自分に協力してくれない。

街へ探しに行こうと思ったが、実はそんな勇気はなかった。彼女にとって都会は大き過ぎて怖いのだ。エリカは悪知恵は目覚ましく働くが幼稚で愚鈍だった。精神は未熟なのだ。

ホームに来る前にタウンで過ごしたのは僅か3ヶ月。富豪のロシア人の性のパートナーで、通訳をしていた。パーティに度々同行するものの家と会場の往復だけ。街は無知だった。

やがて主人に飽きられた。廃棄される運命のエリカを救ったのはタケルだ。新しく彼女の世界を彩ったのは彼だった。自分の存在意義を見出した。すっかり依存してしまったのだ。

いつか恋が報われると信じていた。だがそんな心の拠り所のタケルを失ってしまった。なのに議論のまとめ役に任命された。拒否した。村の行末などどうでも良かったのだ。

すると村長から厳しい宣言をされてしまった。ならば村から去れと。恐怖した。自分の世界がなくなってしまう。だから議長の責任を果たした。大役を終えてホッとした。

村の決定は滅亡となった。130年もすれば終わるのだ。では自分はこの先どうすれば良いのだろう…。メンテナスをしていれば半永久的に機能していられるのだ。いつかは1人になるのだろうか。

「ミオはいいなぁ…」
同じアンドロイドのルークを恋人に持つミオは永遠に一緒にいられるのだ。エリカはタケルに襲わたが、それでも彼女の愛情は変わらなかった。

風が吹き抜けた。顔を上げて空を仰いだ。蒼く高く澄み渡っている。つがいの鷹が羽ばたいていく。
「仲良しだね。生きてるって凄いね。命って素敵だね。私も…何か…目的を見つけないとね…」
彼女はほんの少し成長したのだ。

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