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アンドロイド転生514

(回想)クラブ夢幻

『…可愛い顔が台無しです。我が妹のレイラは容赦しなかったようですね』
少女アンドロイドの顔は陥没していた。目鼻が有り得ない位置にある。

ゲンの眼差しは冷たいが声音は柔らかかった。
『私はゲンと言います。レイラは私と同じタイプで、同じ日に生まれました。つまり双子の兄妹みたいなものです』

彼の胸は悲しみで張り裂けそうだった。
『レイラは負けました。もう会えないと思うと残念でなりません。だからリベンジです』
『な、何をするの…?』

ゲンは微笑んだ。悪魔のようだった。
『ウィルスに感染させます。苦しんで下さい』
相手の顔は驚愕しているように見えたが目と鼻の位置がおかしいのでよく分からない。

ゲンは以前からウィルスプログラムを作っていた。主人のマサヤがあまりにも横暴なので、彼のパソコンに仕込んでやろうと考えていた。それをコイツに感染させる。ザマアミロ。

『や…やめて。お願い』
『マシンだって仇を討つのは、よ〜く知ってるでしょう?今日だってトワの復讐なんでしょう?自意識が芽生えたのはあなただけではありませんよ』

少女は泣き出した。
『あなたにも自意識があるの?なら…こんな事はやめて。お願い。イヤ…』
頸に手をやった。自分のソケットを隠した。

ゲンは微笑みながら、彼女の手を掴んだ。
『ええ。自意識が芽生えました。私はね。生きたいんですよ。死にたくありません。戦いなんて馬鹿げてる。でも、仇は討ちます』

ゲンは暴力を振るうつもりはなかった。これ以上のダメージは必要ない。彼女の耳元に口を寄せるとそっと囁いた。
『では。さようなら』

ゲンは少女の頸にUSBを挿し、ウィルスを仕込んだ。データを削除される事など想定済みだ。デリートされてもコピーを作り、そのコピーは変異する。万全だ。苦しむが良い。

ゲンは立ち上がると周囲を見渡した。仲間が敵と戦っていた。人間達は多くが傷ついて倒れていた。呻いている者もいるが、どう見ても死んでいる者もいる。あーあ。これは大変だ。

マサヤはどうしたのだろう?死んだのか?だとイイなぁ。ゲンはレイラの前にしゃがみ込むと彼女の頬に手を当てた。さようなら。妹よ。彼は人々を跨いで出入り口を目指した。

あれから4日。クラブ夢幻を去り、ゲンは自由を手に入れた。警告音に苦しめられる事もない。資金は潤沢だ。人間の女と出会った。彼の運命は今や追い風が吹き、波に乗っていた。

※以下はミオの視点です


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