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アンドロイド転生758

茨城県つくば市:マンションの一室

仕事を終えてシンドウアキコは帰宅した。服を着替えて楽になる。緩いパンツを履き胸はノーブラだ。誰が来るわけでも見せるわけでもない。気楽な独身。ちなみに45歳だ。

レンジで惣菜を温めて好きなアルコールで1人乾杯をする。ビールをごくごくと飲んで思いきり息を吐いた。スマートリング(携帯電話)を起動してWEBに繋ぎ動画サイトを楽しむ。

酒好きのアキコは全国の酒蔵所の動画を眺めた。旅行した気分にもなる。1人では行く気にならない。誰か誘ってくれないかと思う。動画を堪能し、次にニュースの掲示板を訪れた。

掲示板では2ヶ月以上前の歌舞伎町の事件について意見が飛び交っていた。
>マシン、暴走、マジやばい
>禁止機構があるのにダメダメじゃん

アキコは焼酎をチビリチビリと飲む。
>マシンが人間を超える日も近い
>やべーなー
>アンドロイドの暴走を止められないの?

アキコの目が見開く。言いたい…!私が研究をしているのだ。エムウェイブは世の中の助けになる画期的な製品で近いうちに日の目を見るのだ。酔った勢いで思わず発言した。

>暴走!止めるよ!私は研究者だよ!
>どこの研究者?
>茨城県
>じゃあ…TEラボだな?

直ぐにラボを特定されてアキコは青くなった。ま、マズい…。大変だ…。社外秘をペラペラと喋ってしまった…!慌ててサイトから落ちた。そのやり取りをWEB内で見ていた者がいた。

アキコは立ち上がるとツマミを追加してまた酒を飲み始めた。酔ってくるとマッチングアプリを起動した。お気に入りのサイトに訪れた。それも人間とアンドロイドを結ぶサイトである。

これは誰にも秘密なのだがアキコはニュージェネレーションだった。アンドロイドと肉体関係を持つ類いの人間なのだ。すっかりハマっている。それでも若い頃には人間の恋人がいた。

交際を重ねて初めての夜を迎えた。だが事を終えると相手は鼻を鳴らして唇を歪めた。
「何だよ。マグロかよ」
アキコはその言葉に衝撃を覚えた。

男は大袈裟に溜息をついた。
「お前は顔がイマイチなんだからせめて身体だけでも楽しませてくれたら良かったのに」
それ以来アキコは人間不信になってしまった。

ある時、SNSでアンドロイドと一夜を過ごすというサイトを発見した。目を見張るほどの美しい男性モデル。酔った勢いで申し込んだ。そしてひとときを過ごした。夢のようだった。

アンドロイドは優しかった。マグロだなんて暴言は吐かない。アキコの全てを受け入れてくれた。オプションではデートもしてくれる。まるで自分をお姫様のように彼らは扱うのだ。

美術館や映画館や遊園地。毎回少女のようにはしゃいだ。現実は孤独な中年女だがそれを誰も嘲笑わない。ニュージェネレーションはあっと言う間に世の中に浸透したのだ。

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