見出し画像

アンドロイド転生176

白水村:リペア室

「…エリカ。起きて。起きて」
闇に光が差すように声が聞こえた。誰…?誰なの?エリカは瞼を開いた。眩しい光。白い天井。目の前には40歳前後の美しい女性がいた。

エリカは寝台から起き上がり周囲を見渡した。今まで住んでいた富豪の邸宅とは雲泥の差だった。室内は物の山だ。だが一定の法則があった。ここはまるでオペ室か科学室のようだ。

女性はニッコリと微笑んだ。
「私はキリ。修理人よ。はい。鏡。顔を見て」
キリに差し出された鏡をエリカは受け取り、言われるまま自分の顔を見て驚いた。

エリカは呟く。
「片目の色が違う…ブルーが菫色になってる…」
「勝手に変えてごめんね。ホラ、私の目の色も違うでしょ?同じにしたかったの」

キリは右目を指した。ブルーだ。左目は焦茶色。
「私は生まれつきオッドアイなの。さて、エリカ。質問はある?」
質問なら山程あるが…タケルは…どこに…。

エリカは自分を導いてくれた彼が気になった。
「タケルさんは…」
「いるよ。後で来る。タケルが俺を信じろって言ったから…エリカはここにいる」

そうだ。彼がラボから助け出してくれた。そして彼の後をついて森の中へ入って行った。GPSを探知されないようにする為に私は強制終了されたのだ。そして目が覚めたらここにいる。

「ここは…どこですか?」
「TEラボから80km程離れた山頂の集落。54人の人間と7人のアンドロイドが暮らしている。1000年前の平家の落人の子孫なの」

「あなたは…誰ですか?」
キリはニッコリとした。
「村長の娘で旦那と息子がいる。エリカも今日から家族だよ。ここはマシンと人間の線引きがないの」

エリカは驚く。キリは続けた。
「だから警告音のプログラムを削除したよ。もう音は鳴らない。どう?素敵でしょ?」
それは素敵だ。だが…私が家族…?

キリは小首を傾げた。
「エリカは仕事は何をしてたの?」
「パートナーです」
パートナーとは人間の性欲の相手だ。

キリは溜息をついた。
「もう、そんなことをしなくて良いよ」
エリカは不安になった。
「それでは私の存在意義がありません」 

まるで自分のアイデンティティを失ったかのように感じた。でも旦那様に捨てられた時点で自分は終わったのだ。廃棄される運命だった。だがラボから逃げ出し自ら打ち破ったことを思い出す。

キリの瞳は煌めいた。
「本当に?エリカは命令されるだけの存在?あなたはもう人間に服従しなくてもいいの。これからは自分の考えで生きていいの。自由なんだよ?」

エリカは絶句する。なんて応えて良いか分からなかった。キリはニッコリとした。
「追々考えていけばいいよ。時間はたっぷりあるんだからさ。ね?」

エリカは恐る恐る頷いた。だが自由という意味が理解出来ない。いや。単語としては知っている。それをどう扱って良いのか分からないのだ。
「ここで暮らすんですね?私は…」

「そう!モットーは楽しく暮らすこと!皆んなそうしているよ!エリカもそうしていいんだよ」
そうは言ってもどうすれば楽しくなるのかエリカにはまだ分からなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?