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アンドロイド転生1008

2119年12月18日 午後10時半
ロンドン ミアの家

(アキオの視点)

リョウとデートだった娘が帰宅した。側にやって来ると瞳を輝かせた。
「お父さん。ハレノヒって知ってる?」
「ああ…懐かしいなぁ…。そう…特別な日だ」

日本人のアキオは遠い目をした。
「僕がグレースにプロポーズしたのもハレの日だ。7月7日の七夕だったなぁ…」
「えっ!7月7日⁈」

娘の驚きにアキオも驚いた。どうしたんだ?ミアは呆然としている。
「他に…ハレノヒってないの?」
「あるよ。大晦日も正月も」

アキオは宙を見つめる。
「3月3日。5月5日。ああ…成人式や冠婚葬祭もハレの日だ。人生の節目に祝うんだ」
「じゃあ…そんなに待たなくて良いのね」

アキオは眉根を寄せた。
「ん?どう言う意味だ?」
ミアは慌てて手を振った。
「何でもない!忘れて!」

ミアが自室に消えると妻のグレースがやって来てニッコリとする。悪戯っぽい表情だ。
「2人はまた新しい段階に進んだみたい」
「え?あ…まさか…」

グレースはアキオの背中を叩いた。
「花嫁の父になる日も近いかもしれないわね」
「そ、そうか…」
アキオは俄かに緊張してきた。

ミアが結婚するのは構わない。リョウは真面目で礼儀正しくて穏やかだ。頭の回転も早く英語も直ぐに上達した。仕事も順調なようだ。何よりも娘がいつも笑っている。それが嬉しい。

親にとって子供に望む事は幸せになって欲しい。それだけだ。2人は素晴らしいパートナーになるだろう。それの第一歩の日が近いのか。
「うん。良いんじゃないか」



同時刻 日本時間 12月19日 午前7時半
茨城県白水村 タカオとキリの部屋

(タカオの視点)

妻のキリのスマートリングがコールした。応答するとリョウの立体画像が宙に浮いた。
『朝早くにごめん』
「大丈夫」

キリは苦笑する。
「もう年末だよ。一体いつこっちに戻るの?」
『帰らない。ずっと。一生』
「は?なんで?」

だが直ぐに思い至った顔をした。
「結婚するの?ミアさんと?」
『うん。俺はイギリスで暮らす』
タカオは立ち上がってキリの側にいった。

「聞こえたぞ。そうか。結婚するのか。うん…そうか…。常日頃…俺は動けば新しい風が吹くと皆んなに言っているが…。お前は台風並みに人生が変わったな。リペア室が世界だったのに」

リョウは苦笑する。でも嬉しそうだ。
『本当にそうだな。台風並みだ。でもそれがいつも楽しいんだ。ハッピーってやつだな』
「ハッピーか。良いじゃないか」

タカオは首を傾げた。
「で?いつ結婚するんだ?」
『まだ。これからプロポーズするんだ』
「そうか」

リョウは左手を開いて見せた。
『タウンではさ?夫婦になると薬指にリングを嵌めるんだ。それがパートナーの証なんだよ』
「ああ。知ってる」

『でもその前に婚約指輪を贈るんだ』
「へぇ…そうなのか。それは初耳だ」
山で暮らした彼は知らなかった。
「そうか。プロポーズの時に渡すのか」

『うん。あのさ?俺は自分の意思でイギリスに行ったけど…そもそも国民になれ。動けってタカオが背中を押してくれたんだ。感謝してる。有難う』
タカオは笑った。嬉しかった。心から。


※リョウが渡英する決意を固めたシーンです


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