アンドロイド転生995
2119年9月30日 夜
茨城県白水村 キリ達の部屋
『行ってくるよ』
ルイの言葉にキリは嬉しくなった。
「じゃあ…伝えてあるから会ってきて」
『分かった』
ルイが里帰りした時に言ってたのだ。秋の修学旅行はイギリスだと。まさか従兄弟のリョウと息子が遠い地で会うとは思わなかった。リョウの彼女も見て来てと言うと立体画像のルイは笑う。
『彼女なんて信じらんねぇ』
「だよね」
『リョウ兄ちゃんはいつ帰ってくんの?』
「離れたくないんだって」
リョウはイギリスで日本人と白人のハーフの女性と知り合った。熱烈な愛を注がれたそうだ。誰もが信じなかった。コンピュータオタクのリョウに恋人など出来るわけがないと笑ったのだ。
ホームにいた頃のリョウは最悪だった。遅寝遅起き。いつも頭はボサボサでヨレヨレの服。そして無精髭。殆どリペア室に篭り、話し相手はキリとタカオだけ。本人はそれで満足そうだった。
そんなリョウに恋人が?とキリは信じなかった。リョウはそれが不服だったようで、ある日画像で紹介してくれた。ミアと名乗った女性は美しかった。そして幸せそうだった。
リョウはカッコいい。素敵だと何度も言った。キリはつくづく思った。そうだ。人には何かしら良い面があり、それを見つけ出す人がいる。ミアはリョウの良さを発見したのだ。
リョウは暫く日本には帰らないそうだ。イギリスで仕事を見つけたらしい。まだ稼ぎは少ないけれど楽しいんだと笑っていた。キリは嬉しかった。従兄弟だけど弟のようなものだから。
『母ちゃん?』
ルイの言葉にハッとなる。
「えっと…いつまでだっけ?修学旅行」
『明日から10日まで』
「そっか。楽しんできて」
『お土産を買ってくるよ』
「サンキュー。リョウに宜しく言ってね」
『分かった。父ちゃんにヨロシクな』
そんな言葉に嬉しくなった。以前は親と口をきくと損をすると言わんばかりでいたのに別人だ。ルイは笑った。その顔が大人びていた。我が息子ながらなかなかイケてるわと思う。
通話を切るとキリは満足げにふぅ〜と溜息をつく。ルイは変わった。17歳になり思春期という波が引いたのか…それとも離れて暮らして1年以上が経ち、親の有り難みでも実感してくれたのか…。
ルイはタナカ夫妻とも義妹のマリコとも上手くいっているようだ。学校も楽しいらしい。今は高校2年生で部活は山岳部だ。優れた記憶力でキノコや花や鳥の種類を披露するそうだ。
そして勉強はいつも首位独占。ルイは不思議そうな顔をしたものだ。タウンの人間は学問レベルが低いのかと。閉鎖的な村では育った彼は自分の知能の高さを知らなかったのだ。
教師の勧めでメンサという高い知能を有する国際グループのテストを受けて一定基準に合格し、加入したそうだ。メンバーとの交流でルイは漸く平家の偏った血の恩恵を理解した。
カナタとシオンにも勧めるとシオンはIQ145。なんとカナタはIQ180だったらしい。
「あんなアバウトな奴がオカシイ!!」
そう言ってルイは苦笑したものだ。
夫のタカオが部屋に入って来た。
「明日か。旅行」
「うん。国民にして…良かったね」
「そうだ。俺達は間違っていなかった」
※親子に少し距離があった頃です
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