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アンドロイド転生3

斎場にて

幸せの渦中にいたアオイ。なのに突然命が終わった。彼女は漸く自分の死を理解した。半透明のアオイは多くの参列者と共に遺影を見つめ続けた。笑顔の自分を見るのが辛かった。

涙が頬を伝った。私は昔から泣き虫だけど…自分の葬式で泣くなんて…。ああ…。挙式をする筈だったのに…。ママ…パパ…ミナト(弟)。ヒナノ(親友)…。そして…シュウ。心から愛した人…。

別れるの…?私達…。本当に?本当に…?シュウちゃん。抱き締めてよ。温もりを感じたいの。頭を撫でて。変な夢見ちゃったと笑いたいの。お願い…夢なら覚めて…。誰か助けて。神様助けて…。

アオイの願いは叶わず荼毘に付された。雨上がりの空を白い霞が大気に溶けていく。もう帰る身体もないと思うと淋しくて、また涙が溢れてきた。止まらなかった。いつまでもいつまでも。

アオイは空を見上げて嗚咽を上げた。私は死んだ。もう終わった。うん…。そうね…もういい。終わりにして。幽霊になんかなりたくない。地縛霊のようにこの世に留まるのは嫌だ。

アオイは心から願った。雲が晴れて天から光が射した。彼女の身体を3月の暖かな陽光が包んだ。眩かった。瞼を何度も瞬かせた。手のひらで陽光を遮るとその手がキラキラと光った。

どんどん透けてくる。腕を見た。胸を見下ろした。砂粒みたいにサラサラと消えていく。私…消えるんだ。終わるんだ。魂も死ぬのね。ああ、もう目を開けられない…。瞳を閉じた。

とうとうお迎えが来たんだ…。良かった。さよならシュウ。さよなら私…。光の中から声がした。
「現世に戻りたいか」
「え…?」

誰かの声がする。いや耳に入ってくるのではない。温かな塊が胸の中に飛び込み、蕾が開くように言葉が生まれたのだ。
「なに…?誰…?」

「現世に戻りたいか?」
誰なの?もしかして…神様?そんなのいるの?本当に?いるなら…叶えて!
「はい!戻りたいです!」

「では、お前に命を与えよう。どんな形であれ懸命に生きよ」
戻れる?本当に?
「はい!はい!有難う御座います!」

瞼を通しても眩しくて仕方なかった。掌で顔を遮断する。遠くから声が聞こえてきた。
「…起きなさい」
なに?なんて言ってるの?
「R2-320i起きなさい」

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