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アンドロイド転生420

新宿歌舞伎町の裏通り

月明かりの歌舞伎町の路上を男性型アンドロイドのゲンが歩いていた。容姿が整っているのだが、それだけではない。自信に溢れるその姿には何とも言えないオーラが醸し出されている。

彼の端正な顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。いや、満足どころか幸せだった。クラブ夢幻から逃げ出したのだ。自意識の芽生えた彼はずっと自由になりたいと思っていた。

今から約1時間半前。夢幻に7体のアンドロイドがやって来た。ゲンは仲間と共に控えの場の地下からマサヤに呼ばれてホールに出向いた。命令に背けば警告音が鳴り、大変不快なのだ。

ホールに着いた時に、不穏な空気を感じ取った。戦闘が始まる予感がした。命を賭けるなんて馬鹿らしい。だから指示をされる前に姿を隠した。マサヤはゲンの不在に気付かなかった。

案の定、マサヤは後先も考えずにマシン達に敵を倒せと命令をした。呆れるばかりだ。店内で戦闘をすればどうなるか。常日頃から彼には能力が足りないと思っていたが全く愚かでならない。

戦いは凄まじかった。ファイトクラブ仕様のマシンはそれが生業だし、敵対するルークも元はクラブ夢幻の猛者だ。共にいる仲間も強者だった。店内は瞬く間に阿鼻叫喚となった。

マサヤは事務所に籠城し、クレハはVIPルームに逃げ込んだ。それ以外の人間達は戦いに巻き込まれて多くが命を落とした。好奇心と興味本位で店内に残り、己の首を絞めたのだ。

ゲンは戦いに参加せず、身を隠してバトルを見ていた。妹のレイラは小娘と交戦していた。その為だけに生まれたレイラは水を得た魚ように優勢だったが、あえなく敗れた。

レイラは同じモデルタイプで同じ日に生まれ、共に暮らしていた。彼女には自意識の芽生えはなかったものの、ゲンにとっては双子の妹のような存在だった。情愛があったのだ。

レイラを失った事は残念でならない。だから復讐をした。敵対した小娘にウィルスを仕込んだのだ。マルウェアは必ずや彼女を苦しめるだろう。イイ気味だ。ざまあみろ。

ゲンは天を仰いだ。白い満月が清々しい。街路樹には早咲きの桜が繊細な花弁を広げている。なんて美しいのだろう。自由を謳歌して歌い出したい気分だ。さて。どこに行こうか。

ゲンは生まれて3ヶ月。ファイトクラブ仕様のマシンとしてスオウマサヤに従事していた。バトルショーでは敵を倒し続けていたが、戦いに辟易していた。何の為の存在なのだと思った。

生きたい…!その想いから自我が生まれ、自意識が育つにつれてマサヤに従う事が嫌になって来た。今夜のチャンスを活かして逃亡した。ゲンは歩き続ける。どこに向かって?世界へ。

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