アンドロイド転生541
白水村:リペア室
キリは叔父のケンジの加勢でようやく手を止めた。デスクの食事を見てボトルの野菜ジュースを手に取るとゴクゴクと飲んだ。
「あー!美味しい!水分を摂るのを忘れてた!」
リョウも野菜ジュースで喉を鳴らしおにぎりをガツガツと食べ始めた。やっと食欲を思い出したようだ。キリはサンドイッチを口にした。
「お腹が空いてるのも忘れてたわ」
アオイは恐る恐るイヴを見上げる。きっと…まだ…ウィルスプログラムはデリートが出来ていないのだろう。変異したウィルスは手強いようだ。タイムリミットはあと38時間だ。
サツキが口を開いた。
「どんな様子ですか?」
キリは顔を顰めた。
「厄介だよ。なかなか手強い」
アオイは溜息をつく。アンドロイドのゲンはなんて恐ろしい事をしてくれたのだろう。
「アオイ…アオイ。お願いがあるの…」
ミオが囁いた。
アオイは寝台に横たわるミオに駆け寄った。じっくりと彼女を見る。14歳だった身体は25歳クラスになった。少女の頃の面影を宿しているものの大人の女性になり成熟した美しさだ。
ああ。こんな状況でなければ新しい彼女の誕生をどんなに嬉しく思っただろうか。
「なに?何でも言って」
「アオイの過去を見せてくれる…?」
ミオは人間の過去を持つアオイの記憶を知りたいのだ。人間に憧れているミオはタケルにせがんで度々彼の記憶にアクセスした。タケルの妹のミチルがお気に入りで成長を喜んだ。
ある日、アオイにも見せてくれと頼み込んだ。アオイは拒否した。自分の記憶は自分だけのもの。誰にも共有されたくなかった。ミオは諦めて、それ以降は口にする事はなかった。
ミオの瞳から涙が零れ落ちる。
「ここで寝ているだけが辛いの。もし…もし…ウィルスが発動されたら…私は死ぬと思う。だから知りたいの。人間の想い出を…」
ルークがミオの手を強く握り締めた。
「そんな事を言うな!お前は助かる!」
アオイも慌てた。ミオの手を掴んだ。
「そうだよ!大丈夫だよ!負けないで!」
ミオの声が震えた。
「ごめんね。アオイが嫌なのは知ってるけれど、どうしても見たいの…。アオイは子供から大人になった。素敵だよ。とっても」
アオイは何故あの時拒否をしたのだろうと思う。私の数々の想い出を共有してくれたら、この孤独が少しは癒えるかもしれないのに。
「ミオ。見てくれる?私を知ってくれる?」
※以下はアオイとミオの過去のやり取りです
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