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アンドロイド転生62

2041年1月末
伊丹空港:ターミナル

「お…お帰りなさい」
大阪の役員のキミシマは大阪の伊丹空港でカノミドウシュウと妻のユリコ、息子のタクミを出迎えた。キミシマは感極まって嗚咽を漏らした。

昨年末の28日の夜…第二次関東大震災が発生した。幸運にもハワイにいたシュウと家族は被害を免れたが、日本に戻って来れたのは1ヶ月後だった。震災の被害は膨大で関東平野は壊滅した。

カノミドウ製薬の代表の両親もユリコの父母も亡くなった。従業員とその家族2万人も犠牲になった。いや。死亡が確認されたのは僅かだった。被害があまりに大き過ぎて把握出来ていないのだ。

首都直下型で多くの建物が倒壊し、湾岸地域の津波により大多数の人命が失われた。現時点で死亡者、被災者数は1000万人を超えていた。年末の28日はまだ人々の大移動が起こる前だったのだ。

復興の予定や再建の見込みなど立たなかった。余震の心配もあり何も手につけられない状況なのだ。日本経済は破綻し円の価値は暴落した。もう再起は見込めないと人々は悲嘆に暮れた。

キミシマの案内でシュウ達家族は彼が用意した大阪のマンションに腰を落ち着けた。キミシマはすっかり消沈してひと回りも痩せていた。
「副社長、我が社はどうなるのでしょうか」

カノミドウ製薬は日本全国の主要都市に支店がある。東京本社、関東の各支店は壊滅しても他に従業員はいるのだ。ここで倒れるわけにはいかない。シュウはキミシマを見つめ力強く頷いた。

「大丈夫だ。幸いにもうちには数多くの薬品の物質特許がある。まだうちには底力が残っている」
「しかし…円の価値は暴落しました」
キミシマは力なく肩を落とした。

シュウはキミシマの側に行くと肩を叩いた。
「何を言ってる?第二次世界大戦で、日本全国が焼け野原になったんだぞ?そこから復興したじゃないか!日本は立ち上がれるさ」

キミシマは驚いたようにシュウを見た。一体どこからそんな力が湧いてくるのだと思う。
「ふ、副社長…」
シュウは力強く頷いた。瞳が煌めいていた。

「実は僕が考えている事があるんだ。これから先の世の中はロボットの…いやアンドロイドの時代が来る。絶対に来る。だからね?アンドロイドの人工皮膚の研究をしようと思っているんだ」

「け、研究?今…この時にですか?よ、予算はどこから得るんですか?」
「台湾はアンドロイド研究に力を入れている。きっと興味を示してくれるはずだ」

「台湾…」
「そう。まず手始めに、うちの薬の特許権を売るんだ。それで外貨を得る」
「し、しかし…」

シュウは立ち上がった。窓を開けた。青い空を見た。空気が凛と張り詰めいている。何があろうとも日は昇るのだ。負けてたまるか。
「僕はやるぞ。絶対に諦めない」

キミシマの心配をよそに、シュウは本社の登記を大阪に移し語学が堪能な若手営業社員を引き連れて翌週から台湾を周った。何社も断られたが諦めなかった。必ず時代は変わるのだと信じていた。

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