アンドロイド転生906
(回想)
2118年10月26日 午後
スオウ組事務所にて
(スオウの視点)
『…僕の彼女がゲンに殺されたんだよ』
スオウはソウタの言葉に怪訝な顔をする。
「マシンに人は殺せないぞ」
彼は恋人が人間だと思い込んだのだ。
『僕はニュージェネレーションだもん。僕の彼女はアンドロイドだもん』
スオウはそうかと思う。最近の若者の風潮は知っている。だが呆れた。全く理解が出来ない。
スオウはソウタをじっと見つめた。理知的な瞳をしているし、健康的な青年に見える。女からもモテそうだ。なのに恋愛対象がマシンなのか。世の中は一体どうしたんだ?
しかもマシンの恋人を機能停止にされたからと言って恨むのか?機械の塊を相手に人間達は何をやっているのだ?そしてその復讐の為にわざわざ俺から権利を譲ってもらいたいとは…。
「たったそれだけか?それだけの事で私の顧客データを握って私を意のままにしたいのか」
『それだけの事って言わないでくれる?僕にとっては家族なんだ。その仇なんだ』
スオウは鼻で笑った。
「ふん。家族だと?」
『そうだよ』
ソウタは当然の顔をする。
スオウは妻のミナコの言葉を思い出す。執事のヒロトが機能停止になった時、激しく泣いて自分を責めた。息子のように思っていたそうだ。馬鹿な女だと呆れるばかりだった。
彼にとってはアンドロイドなど電子デバイスだ。役に立つツールに過ぎない。人の外見を模した…そう。操り人形と同じなのである。そこに情愛などは生まれる筈もなかった。
スオウはまたソウタを見つめた。その瞳に嘘は感じられない。真実を語っているように見える。しかしどこまで信用して良いものか。だが…顧客データを消去すると言う話は魅力的だ。
スオウはニヤリと笑った。この野郎の画像が本物だとは限らない。事務所に姿を見せてみろ。
「よし。本気なら明日ここに来い」
『分かった』
ソウタのコンピュータルームにて
(ソウタの視点)
スオウと通話を切った。よしと頷く。
「リツ。やったぞ。行ってくる」
「俺も行きます」
「来なくていい」
リツは断固として譲らない。
「ソウタさん。俺も行くぞ。ゲンは俺の妹も苦しめたんだ。絶対に許せない」
リツにとってミオは妹だった。
ホームは親戚。その一員だったミオ。アンドロイドだとか人間だとかの線引きなどない。
「ルークも家族でした。無念を晴らしたいんだ。のんびり待っているなんて嫌だ」
ソウタは理解した。自分がスミレを想うようにリツだって彼らを大切に思っていたのだ。自分だけが辛いわけではない。
「分かった。よし。行こう」
アリスが身を乗り出した。
「私も行きます!」
「アリスは女の子なんだからこう言う時は待つんだ。これは男同士の決着なんだ」
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