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アンドロイド転生940

2118年12月24日 夜
東京都港区
(シオンのホストファミリー宅)

シラトリ夫妻はいつものように笑みを湛えて人々の間を縫っていく。シオンはひっそりと隅におり、深々と息を吐いた。本当にあの人達はパーティが好きなんだなと思う。

夫妻は月に一度はパーティを催す。大規模病院の経営者で名士のシラトリ家には毎回多くの人が集まるのだ。2人共いつも自信に溢れており社交的だ。ホストとして相応しい。

シオンもさっきまでシラトリ夫妻と一緒になって客達と談笑していた。自分の役割は分かっている。如才なく人々と付き合うのだ。そんな彼の振る舞いに義父母は満足そうだった。

ひと休みしたいと告げて隠れるように隅にいる。本当は早く終わらないかなとずっと思っていた。毎回こんな調子では疲れてしまう。シオンは大人の世界を垣間見て大変だなと実感する。

義姉のマイカの姿はない。恋人と過ごすらしい。それはそうだろう。20歳なのだ。親よりも彼氏を選ぶ筈だ。マイカはシオンにどこかに遊びに行けと言ってくれたが結局は家でパーティだ。

ルイを誘ったが同級生と食事だそうだ。カナタは自宅のパーティであっと驚くイベントらしい。どうやら彼女が出来たようで浮かれていた。何だ。1人ぽっちは僕だけか。

いや。実は学校の友人や女子達が挙って誘ってくれたのだが断った。シオンは家のパーティでは社交的だがそれはシラトリ一家に対する恩返しだ。それ以外で無理をしたくないのだ。

シオンは宙空を見上げてトウマを想った。今頃どこにいるのだろう…。恋人のヒマリと素敵なレストランで食事でもしているのだろうか。その後を想像すると腹が立つし最悪な気分だった。

「シオン君。ちょっといいかな?」
中年男性がやって来た。名前は知らないが何度か会った事がある。シオンは相手を観察した。こう言う人をイケオジって言うんだろうな。

「温室を見せてくれるかな?」
「え?」
「パーティに疲れちゃってさ。マイナスイオンが吸いたいなと思ってね」

成程と思う。自分も気分転換したくなった。
「いいですよ」
2人は連れ立って歩いて行く。温室に入るとイケオジは緑と花を見て感嘆した。

「美しいなぁ!僕は綺麗なものが好きなんだ!」
クルリと振り向くとシオンを見つめた。
「だから君を見た時は本当にビックリしたよ。あまりにも綺麗でさ」

「はぁ…そうですか」
シオンは賛美の言葉などすっかり慣れてしまった。イケオジはスッと手を伸ばすとシオンの銀髪に触れた。驚いた。何なのだ?

「彼女いる?」
「いません」
「じゃあ…彼氏いる?」
そんな言葉に驚いた。

「君は…男性が好きなんじゃない?」
シオンは呆然となる。イケオジは頷いた。
「ああ。やっぱりそうなんだ。同類はね?分かるもんだよ」

「ど…同類…。で…でも奥さんが…」
そう。確かいつも夫婦で来ていた。
「奥さんは…金持ちだからね」
金で繋がった仲なのかと思う。

イケオジはニッコリとして小首を傾けた。
「それで…君は誰にも内緒なんだね?」
シオンは俯いた。イケオジはシオンの顎に触れて顔を上げさせた。2人の視線が絡んだ。


※シオンのお披露目パーティのシーンです


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