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アンドロイド転生361

首都高速道路

タケルの車とエリカのバイクは東京都品川区のスオウトシキの邸宅に向かっていた。スオウを青海埠頭に拉致し、息子のマサヤを呼び出して親子共々片付ける。タケルには並々ならぬ決意があった。

もうすぐだ。もうすぐでトワの仇を討てる。人間の心を持つ自分だからこそ出来る決着の付け方。それにホームを守らなければ。スオウはいつか村に来る。その為に輪廻転生をしたのだ。

タケルは昨晩のアオイの涙を思い出した。
『人を倒す為に輪廻転生をしたんじゃない』
アオイはそう言っていた。じゃあ…?俺は何の為に生まれ変わったと…?

キリは幸せになる為だと言っていたが。確かに今、俺は幸せだ。どんな時も…人間だった頃もアンドロイドの今も全力で生きている。そして、家族が俺の生きる支えだ。
  
79年前のあの日の夜。第二次関東大震災で母親と妹を失った。貧困の中、3人で肩を寄せ合って生きてきた。細やかな幸せを奪われ希望を失った。自分も被災し、死ねる事に安堵した。

まさか再び目覚めるとは思わなかった。それもアンドロイドの身体になって…。孤独だったものの、それでも美容師と言う天職を得て生き甲斐を見出した。10年間は幸せだった。

更に9年間。ホームで新たな道を歩んだ。人間とアンドロイドの家族に囲まれ穏やかな日々と夜の狩という強奪家業。その一瞬の刺激には心が躍った。生業だと思った。

しかし、この家業が自分達の首を絞めるとは。まさかヤクザを相手にするなんて。その犠牲は大きい。トワの顔が思い出された。また俺は家族を失った。因果応報なのかもな。

『タケル…タケル?怒っていない?』 
バイクで並走するエリカが通信してきた。
『怒ってるよ』
タケルはエリカとミオの参戦を快く思っていなかった。また家族を失いたくないのだ。

タケルは車窓からエリカを見た。
『いいか。スオウの守衛は手強いぞ。無理して戦うな。逃げろ。分かったな』
『分かってる』

タケルとエリカにイヴから通信が入った。
『アオイがスオウと取引をすると言っています。策には2通りあります。利益と脅迫です。私はプランAを進めています。アオイはプランBを実行する為にチアキと共にホームを出発しました。スオウ氏の10歳の次男を拉致します』

タケルは眉を顰めた。
『何だって?』
『あなたに殺人を犯して欲しくないのです。この策が上手くいくまでスオウ氏を傷つけないで下さい』
『アオイのヤツ、余計な事を…』
タケルは舌打ちをした。

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