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アンドロイド転生727

白水村:リペア室

キリはタケルに心から同情した。彼はエリカを憎んだろうし、ハスミエマに申し訳なく思ったろう。そして自身の存在を呪っただろう。
「エリカ…なんて酷い事をしたの…」

リョウはハッと思い出したかのような顔をした。
「そ、そう言えば…エリカは盗撮器を俺に造れって言ったんだ。で…造って…渡した…」
キリは驚いて目を丸くした。

そう。エリカはその完成した3つをアオイの元主人のタカミザワ家のリビングに設置した。だがエリカに明確な目的があった訳ではない。モネの弱みでも握れれば御の字と思っただけだ。

キリは眉間に皺を寄せた。
「どこに取り付けたの?」
「分からない。言わなかった」
今も誰にも気付かれる事なく稼働している。

キリは深々と溜息をついた。
「まったく呆れるよ。じゃあ…エリカは…エリカの罪は…脅迫、密告、誹謗中傷、盗撮ね?」
リョウは小刻みに頷いた。

「で、あんたの罪は盗撮とエリカを黙認したこと。そしてタケルの彼女を陥れたこと。確か…日本を出て行ったとか…。あんたはエマって人の人生を潰したんだね。まったく…あり得ないよ」

リョウは項垂れて小さくなった。
「ば…馬鹿な事をした…」
「そんな馬鹿な事の為にあんたは自分の能力を使ったんだよ。最低だよ…」

リョウは益々小さくなった。しかしこれ以上リョウを咎めても、起こしてしまった事実は変わらない。反省して責任を取る事だ。彼はこれから先をどう償って生きるか考えれば良い。

それよりも何よりもキリはエリカを嫌悪した。リョウを脅し、アオイとサツキの死を望み、ハスミエマを潰した。タケルを想うがあまりに常軌を逸している。そう。まるで異常だ。

だがその固執する相手がいなくなった。当初は会議の纏め役を辞する勢いでタケルを探した。キリやイヴに何度も協力を求めたが拒否した。最近は諦めたのか静かになった。

議長としての役目を終えて、ひとつ大人になったとキリは喜んでいた。だがとんでもなかった。これはあまりに酷い。人を陥れるとはアンドロイドとしてあるべき行為ではない。

キリは虚空を見つめてひとり頷いた。エリカは…存在そのものが悪だ。
「リョウ…責任を取らなくちゃいけない」
「う、うん…」

「私達は…ラボから逃亡したアンドロイドを助けたり村に誘ったりして連れ帰った。家族になったとは言え…やはり人間としてマシン達を制御しないといけない。でも出来ていなかった」

キリの瞳に決意が宿った。
「このまま放置すればエリカはもっと大きな罪を犯すかもしれない。その前に手を打つ」
「う、うん」

キリは息を吸い込んだ。
「エリカを…機能停止(死)する」
リョウは暫く黙っていたがやがて小さく頷いた。
「分かった…。俺が…やる」

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