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アンドロイド転生506

中央区:銀座

ゲンは夢幻から逃亡し、高級ホテルに宿泊し、銀座の街で買い物を楽しんだ。自由を謳歌していた。たった1日しか過ごしていないのにもう既に自信と余裕を身に付けていた。

ホテルに戻り、翌日も昼に出てきた。スポーツウェアを身に纏い走り出した。公園に到着すると芝生で運動を始めた。アンドロイドには必要がないのに人間と同じ事をしたかったのだ。

近くに主人にトレーニングコーチをするアンドロイドがいた。彼らに声を掛けて一緒に運動を始めた。ゲンは満面の笑みだ。何たる気儘で大胆な様だろうか。何もかもが強気だった。

夕暮れにホテルに戻ると、シャワーを浴びて身支度を整えホテルの談話室へ向かった。室内では多くの人々が思い思いに時を過ごしていた。囲碁やチェスを楽しんでいる者もいた。

タイミングを見計らい話しかけて親しくなった。ゲンは益々人との付き合いを学んでいった。如才のない彼は直ぐに人間と親しくなった。夜更けまでゲームに興じた。

翌日は街を散策し美術館や博物館を訪れた。正直言って作品の価値は分からなかった。人間の美的感覚が理解出来なかったのだ。それでも文化に触れた事は良い経験になった。

路上では宙空にデジタルニュースの立体画像が所々浮かんでいる。相変わらずクラブ夢幻のニュースで持ちきりだ。平和な日本では滅多にない大事件なのだ。82人の犠牲者は前代未聞だ。

今日新たに2名の死亡が伝えられた。全くなんて事だ。あの日あの時、マサヤの愚かな判断が悲劇を齎したのだ。この事件が収束する日が来るのだろうか。まぁ、俺には関係ないけどな。

警察は現場検証をして事件を起こしたのはスオウトシキ所有のマシン同士が戦闘を始めた事が原因だと発表している。ゲンはその所有リストの中から自分の存在を消した。用意周到である。

そしてイヴもルーク達がクラブ夢幻に訪れた事実を消した。興味本位でルーク達を携帯で撮った客達の全ての履歴をデリートしたのだ。これでルークもホームも暴かれる事はなかった。

夜の帷が下りた頃、着替えてまた出てきた。高級感漂う服装だ。ゲンは自信たっぷりに街を歩く。銀座の高級な店に入って行った。バーだ。いよいよ女性を落としてみせるぞと意気込んだ。

シックで落ち着いた店内にグランドピアノが置かれ、人間でプロのピアニストが弾いていた。アンドロイドが奉仕する社会で、人間自ら提供すると言う事はそれだけ高級な店なのだ。

カウンターで水を飲む。灯りを落とした室内に物憂げな旋律が流れる。1人の女性に目が留まった。目を見張る程の美しさだ。ゲンと目が合うとニッコリと微笑んだ。

女性の手元にはカクテルグラス。人間だ。ゲンは立ち上がると女性の傍に佇み、頭を軽く下げて微笑んだ。人を魅了する笑顔だ。
「ご馳走させて頂いても宜しいでしょうか?」

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