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アンドロイド転生943

2118年12月24日 夜
東京都港区:公園

アオイは1人公園にやって来た。クリスマスイブの夜は閑散としており誰もいなかった。ベンチに腰掛けた。この椅子には何度も座った事がある。幼かったモネと親友のサツキと共に。

まさかまたここに来れるなんて思いもしなかった。4年と9ヶ月前、派遣期間を終えてタカミザワ家から去ったのだ。もう2度とモネ達に会えないと諦めていた。運命とは本当に不思議だ。

アオイは空を仰いだ。月夜。星々。凛とした空気。気持ちが良かった。
「モネ様は楽しんでいるかな…」
16歳のモネは友人とパーティだ。

何度も一緒に行こうと誘われたが丁重に断った。モネは自分に気を遣っているのだ。輪廻転生した元人間だと知ってから、アンドロイドではなく人として接してくれている。

ハロウィンパーティにも誘ってくれた。仮装してモネの友人の家に行った。友人達も自分をカーと呼び慕ってくれている。嬉しいが毎回参加するのは良くない。やはり立場があるのだ。

アオイはモネに心から感謝していた。彼女の計らいで元婚約者のシュウと最後の時を過ごせたのだ。彼は半年前にこの世を去った。シュウは123年の時を生きたのだ。遺言は“幸せになってくれ“。

うん。シュウちゃん。幸せだよ。本当に。
「プロポーズしてくれたねぇ…」
2021年のイブの夜の事をアオイは思い出す。26歳と24歳の2人だった。

素敵なレストランで食事を堪能した。そして彼は指輪を差し出し、アオイは受け取った。ダイヤは所有者を得て益々光り輝いた。まるで昨日のことのようなのに遥か97年も前なのだ。

シュウとは幼馴染で初恋だった。アオイの想いは揺らぐ事はなく大人になって成就した。だが運命は残酷だった。命が奪われ転生した。彼が新たな人と人生を歩んだ事を知った。

「シュウちゃん。人は死んだら星になるって言うのに不思議だね。私はそうじゃなかった。アンドロイドになって…1人で…ちょっとは寂しいけれど…辛くないよ。幸せだからイイよ。それで」

アオイの内側から通信が来た。応答するとサツキだった。彼女は茨城県のホームに残っている。自我の芽生えのないマシンだがアオイにとって親友なのだ。アオイは嬉しくなった。

「メリークリスマス!サツキさん!元気?」
『はい。ホームでパーティの真っ最中です。皆んなとても楽しそうですよ』
「そっか。私は公園まで散歩」

サツキは公園と聞いて嬉しそうだ。2人が親友になった場所なのだ。
『まぁ…!懐かしいですね』
「そのうち、こっちに遊びに来てね」

サツキと通話を切ると直ぐにまたコールだ。
『カー!元気?こっちは楽しいよ!』
モネは笑顔が一杯だ。軽快な音楽が流れており、パーティの喧騒が伝わった。

モネの背後で少女達が手を振った。アオイは微笑む。若い人達。未来は可能性で広がっている。私もそうだったとつくづく思う。
「はい。私も楽しんでいます」

そう。1人でも充分に楽しんでいる。どんな状況であれ、本人が満足ならばそれで良いのだ。幸も不幸も自分次第ということだ。孤独だった日々から漸くアオイは解放されたのだ。


※プロポーズのシーンです


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