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アンドロイド転生632

メディカルセンター

タケルはタカオとキリを麓に迎えに行き、病院に連れて来た。恋人達の両親が対面したのだ。タケルはその場から立ち去った。自分の役目は終わったのだ。いる必要もなかった。

タケルは仲間のエイトに通信をした。病院の中庭にいると言う。訪れると東屋があり、そこにエイトは座っていた。タケルは彼の隣に座った。一面の銀世界と可憐な桜の対比が美しい。

「タカオ達が来た。モネの母親と対面した」
「そうですか」
「どうなるんだろうな」
「成るようになります」

エイトには自我の芽生えはない。アンドロイドらしく冷静に物事を判断する。昨晩の処置も完璧だった。迷う事なくモネを全裸にし、自分の熱を上げて低体温症の彼女を温めたのだ。 

自分にはとても出来なかった。やはり人間の心が邪魔をするのだなと実感する。だが緊急時に冷静にならなければと反省もした。ひとつの判断や決断が後の運命を左右するのだ。

タケルはエイトと共に眩いばかりの雪景色と桜を眺めた。アオイから通信がきた。
『タケル。私は今、麓に向かっているところ。雪道だから時間が掛かる』

タケルは頷いた。アオイが病院にやって来る。アオイはモネのナニーだった。タケルはその事実に昨晩気が付いた。タケルはアオイのメモリを共有し、彼女の過去の全てを知っている。

「まさかルイの彼女がお前の育てた子供だとはな。事実は小説よりも奇なりってやつだな」
『本当にね。凄くビックリしたの。…モネ様の容態はどう?大丈夫?』

タケルは頷いた。
「大丈夫らしいぞ。足首を骨折したが、幸いにも靭帯に及んでいないそうだ。オペとリハビリで完全回復するそうだ」

タケルは時間を確認する。
「10時からオペだ。もう始まった。アオイが到着する頃には終わってる」
『分かった。麓に着いたらまたコールするね』

通話を切るとまたタケルの内側にアクセスがあった。エマだった。喜びで胸が高鳴った。宙空に浮かぶ立体画像のエマは一段と美しくなったように思えた。タケルの目が細められる。

『タケルさん!おはよう!元気?』
「はい。元気です」
『ねぇ?明日、来てくれるんでしょ?』
タケルは頷く。本当は今でも飛んで行きたい。

エマがせつなげな顔をした。
『ホントは今すぐに会いたいの。私がタケルさんのところに行っちゃおうかな?』
「茨城県ですよ?」

彼女は驚いて目を丸くした。
『え?都内に住んでいるんじゃないの?』
そう言えばエマに自分の近況や暮らしぶりを伝えていない事にタケルは気が付いた。

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