アンドロイド転生543

東京都渋谷区恵比寿:オクザワヒカリの住居

エマはタケルの両頬に手を添えた。瞳が輝く。
「ねね？また告白する。私と付き合って。私は人間もアンドロイドも幅広く付き合う女よ？絶対に後悔をさせないから。ね？タケルさん？」

タケルはやんわりとエマの手を外した。
「お付き合いするつもりはありません」
彼女は高らかに笑った。
「固いことを言わないの！人生は楽しむの！」

純真だった少女は年月と共に大人の自信と狡猾さを身につけていた。今度はタケルの腕に自分の腕を絡めて頭を寄せた。タケルは呆れた。どうしてこう…すぐに密着してくるのだ？

エマは唇を舐めてスマートリングを起動する。立体のQRコードが浮かび上がった。
「はい。私のプロフィール。読み取って。いつでも連絡してね。タケルさんも教えて」

タケルは渋々彼女のコードを読み取った。メモリにエマの情報が落とされた。中目黒に住んでいるらしい。自分のアドレスも教えた。そうでもしないと離してくれなさそうだった。

さて。これからどうすれば良いのだろう。ゲンはミオのウィルスを外せない。戦闘は望ましくない。リツは釈放された。自分のなすべき事は何なのか。すごすごと帰る他ないのか。

ゲンは鼻で笑った。
「あなたは幸せですか？人間に服従する運命から逃げたらどうですか？私は今は本当に幸せです。これからも自由に生きます」

ヒカリは小首を傾けた。
「ん？ゲンは執事なんでしょ？主人は作家で旅行中なんじゃなかったっけ？」
ヒカリと出会った時に出まかせを語ったのだ。

ゲンはヒカリを見つめて首を横に振った。
「私はファイトクラブの戦士でした。機能停止を賭けたギリギリのところで生きてました。うんざりして残酷な主人から逃げたのです」

ヒカリとエマは笑った。
「凄いじゃん！そうだよねぇ？ロクでもない主人だっているだろうしね。アンドロイドだって自由になりたいよね。イイじゃん！ゲン」

タケルは自問する。俺は幸せだよな。服従する立場ではない。そうだろ？ホームでは家族なんだ。同等だ。だが…事の始まりの…泥棒稼業は…。人間の代わりに俺達が行っている。

スオウは金品を奪われトワを殺した。俺達はスオウを討つと決めた。戦闘になりミオはレイラを倒した。ゲンはミオに報復してウィルスを仕込んだ。復讐の連鎖が起こってしまった。

俺達は人間に支配されているのか。いや。キリ達は強制した訳ではない。そうさ。自由意志で参加したのだ。だが…本当の自由とは何なのか？家族という言葉に惑わされているのか？

俺は本当に幸せなのか…？いや。幸せだよな…？タケルの心に迷いが生じた。ゲンは見越したように自信ありげに微笑んで手を差し出した。
「私と家族になりませんか？」