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アンドロイド転生1067

2120年9月8日 午後
産院 サキの入院部屋

「ノア(乃亜)ちゃん。初めまして。ツグミです。この子はタクトよ。少しお兄ちゃんね」
ツグミは1歳9ヶ月の息子を抱いてサキの娘を覗き込んだ。優しい眼差しだった。

次にツグミはタクトをナニーに預けるとサキの手を握って振った。うんうんと何度も頷く。
「おめでとう」
「有難う。ツグミさん」

3日前にサキは出産した。サキの母親のアカネと恋人のケイが立ち会った。臍を曲げている父親は来なかった。遺伝子バンクで授かった事を良しとしないのだ。元より父親などアテにしていなかった。

子供の名前はノアにした。サキとケイと同じように2文字。ノアの方舟のように誰かの救いになって欲しい。そんな願いを込めた。昨日手続きを行いドウガミノア(堂上乃亜)となった。

ノアの誕生は平家の子孫にとって非常に大きな意味がある。1000年も長きに渡って同族婚を繰り返してきた。だがサキは新たな血と混じり合った。滅亡の道を選んだ運命から抗ったのだ。

その第一号となり満足感でいっぱいだった。サキはノアを見つめると微笑んだ。まだまだしわくちゃの猿のような顔。どちらに似ているのか分からない。でも私とケイの子供なのだ。

ツグミは母親のアカネに向かって微笑む。
「お母様。赤ちゃんって可愛いですね。希望ですよね。私も遺伝子バンクを利用して母になりました。とっても幸せです」

アカネは胸がいっぱいになった様子だった。
「ええ。希望ですね。命って素晴らしいわね。ツグミさん。いつもサキの力になってくれて有難う。有難う御座います」

サキは度々ツグミの存在を母親に話していた。村で育ったサキに友人などいなかった。村民全員が親戚なのだ。国民になってツグミと親しくなった事が本当に嬉しかったのだ。

ツグミは照れたように笑った。
「とんでもないです。私もサキさんと仲良くなれてとっても嬉しいです。今後はママ友ですし…話の幅が広がります。本当に楽しみです」

アカネは目を細めた。サキは良い人生を歩んでいる。村にいたら仕事もなく友人にも巡り合わなかった。子を成すことだってなかったのだ。娘が羨ましいと思う。サキは財産を得たのだ。

・・・

(5日後)

サキは退院し家に帰って来た。母親はあと半月は滞在するという。気持ちが楽だ。充分甘えてしまおうと思うのだ。何たって妊娠中はツグミ以外は秘密だった。寂しく思う事もあったのだ。

それに先輩として色々と学びたいと思うのだ。ケイは子育てマニュアルをインストールしていたが母から教えて貰う事もあるだろう。サキはナニーを雇うつもりはなかった。

大張り切りのサキだったがそのうち授乳以外の時間は眠るかシーグラスに没頭するようになった。母親のアカネが呆れた。
「何をしてるの?仕事なんてやめなさい」

「だって…お客さんが待ってるもん」
「じゃあ仕事のペースを落としなさい。そして居眠りもやめなさい。健康な母乳の為には健康的なスタイルよ。散歩でもしてきなさい」

「ふぁ〜い」
「何なのその気のない返事は!あと…家事をケイに任せっきりにしないの。どんどん動くの!」
何でこんなに煩いの?とサキは目を丸くした。

そして半月後。アカネは帰って行った。一緒にいる間は煩わしいと思ったがいなくなると途端に寂しくなった。母の存在を有難く思った。サキは俄然やる気を出してノアを育て始めた。

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