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アンドロイド転生842

2118年7月31日 AM1:30
東京都葛飾区:カガミソウタの邸宅

「ス、スミレ…。スミレ…」
ソウタはパジャマにパーカーを羽織り玄関にいた。ヘナヘナと腰を落とし膝を付いた。リツとチアキが公園からスミレを運んだのだ。

バラバラになった姿のスミレ。ソウタは震える手をゆっくりと伸ばしてスミレの頭部に触れた。スミレの目は宙を見つめている。ガラス玉のような何も映していない瞳だった。

ソウタはスミレの頭部を持ち上げて胸に抱いた。肩が震え出し、さめざめと涙を零した。
「ご、ごめんよ…ホントにごめん…」
リツ達の顔は沈んでいた。最悪の事態だ。

ソウタは玄関から動かず項垂れて泣き続けている。その首にそっとアリスは触れた。
「40.2℃。ダメです。ソウタさん、これ以上はダメです。病院に行きましょう」

ソウタはスミレを抱き締めて動こうとしない。アリスとチアキは目配せをして頷いた。チアキはソウタの腕からスミレを奪い取った。ソウタは叫んだ。奪い返そうとして腕が宙を掻く。

アリスとチアキはソウタの両腕を挟み込んで歩き出した。リツは車に走り扉を開いた。ソウタは渾身の力で暴れて、悲鳴を上げた。嫌だ嫌だと何度も叫びスミレの名を呼んだ。

アリスはイヴと通信する。
「救急病院はどこ?」
『5分程の場所に亀有総合医療センターがあります。予約を申し込みました。受け付けました』

病院に到着してもソウタは暴れた。
「家に帰る!スミレと一緒にいる!離せ!やめろ!離せーー!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ度に咳込んだ。

医師アンドロイドはソウタを落ち着かせる必要があると判断し安定剤を投与した。ソウタは一体どこにそんな力があるのかと驚く程に暴れ続けたが、やがて動きが鈍くなり目が虚となった

「リ…リツ…。だ…誰だ…?スミレと…い、一緒にいた…クソマシン…は…」
ソウタは目を閉じて深い眠りに就いた。やっと静かになって一同はホッとした。

リツはソウタの布団を叩いて何度も頷いた。
「調べるから…絶対に」
ベッドが動き出しナースアンドロイドを追尾して集中治療室に消えて行った。

アリスが医師を見つめた。
「この方は恋人を失いました。心のバランスも崩れています。充分な配慮をお願いします」
「分かりました」

リツ達は病院を後にしてソウタの家に戻った。玄関にはスミレの遺骸が転がっている。3人はスミレを抱き上げると濡れた身体を丁寧に拭いた。スミレは池に沈んでいたのだ。

リビングにシーツを敷いて身体を並べた。スミレの瞳は開いている。ガラス玉のようで生気がなくまるで人形だった。アリスがスミレの目を閉じた。その上にまたシーツで覆った。

チアキがスミレ色の花を見つけて手向けた。
「何で…こんな事になったの?スミレを殺ったクソマシンは誰?イヴ。誰?」
『アンドロイドのゲンです』

一同は驚愕した。リツが口を開いた。
「え?ゲン?あの…ミオにウィルスを仕込んだ…あのゲン…なのか?ホントにホントか?」
『はい。そうです』


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