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アンドロイド転生572

渋谷区フェスの会場:休憩所

午後5時。約束通り若者達は戻ってきた。リツが一同を見渡した。
「じゃあ。ルイ達は僕の家に連れて行く。モネちゃん達とはここでお別れだ」

モネは一歩前に出た。ネックレスが揺れた。
「私も行く!私はルイの彼女だもん。お父さんやお母さんに会いたい。分かってもらいたい」
ルイはモネの言葉に感激した。

リツは首を横に振った。
「残念だけど、今日は無理だな。今回は3人とエリカが嘘をついたって事が問題なんだ。ルイと君との事は別の話だ」

モネはルイを振り返った。
「じゃ、じゃあ…今度はいつ会える?お父さん達にもいつ会える?私は村に行きたい。私達の事をちゃんと認めてもらいたいの」

ルイは俯いた。モネの気持ちは本当に嬉しかった。自分だって親に認めてもらいたい。堂々と付き合いたい。だがこの先モネと会えるのだろうか。モネとの連絡手段がないのだ。

今まではエリカが媒介してくれていたが、今回の件でエリカも親から責められるだろう。橋渡しなんて無理になるだろう。そしたらどうやってモネと繋がれば良いのだ…?

ルイの心は重かった。俺は本当に無知だ。茨城県と東京都の距離がよく分からない。いつも車に乗って運ばれるだけ。1人ではタウンに来れない。ペイもない。携帯電話も持っていない。

自分の世界はたった60人の親戚とアンドロイドだけ。山と川に囲まれた閉鎖的な村。都会の女の子との恋愛など出来る立場ではなかったのかと思えてくる。弱気になってきた。

モネはルイの気持ちを察知した。このまま別れたら2度と会えなくなる…!モネはスマートリング(携帯電話)を外してルイに差し出した。
「これを持っていって」

ルイは驚きに目を見開いた。
「で、でも…」
モネの顔が真剣だった。
「もうひとつ買う。そしたら連絡は取れる」

ルイはリツを見た。彼は黙っていた。反対されるかとも思ったが静観すると決めたようだ。ニナが一歩前に出た。
「そうだよ!ルイ!大人に負けちゃダメ」

モネはルイの手を開き、スマートリングを押し込んで、両手で包んだ。
「私…絶対に別れない」
ルイの鼻の奥が痛くなる。泣くな…!

モネが抱きついてきた。あまりの事にルイの息が止まりそうになった。初めてなのだ。モネの温もりを感じて愛おしさに胸が張り裂けそうになった。好きだ。本当に大好きだ。

モネは暫くルイを抱き締めた後、リツに頭を下げて一同に手を振って走り出した。涙が溢れそうになるのを慌てて拭いた。ニナとアンも付いていき、少女達は人混みに消えた。

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