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アンドロイド転生936

2118年12月24日 夜
東京都新宿区某所

リツとアリスは手を繋いで歩いていた。リツの母親の計らいで2人はデート中だ。街は美しかった。イルミネーションも輝いていた。人もマシンも楽しそうに大通りを闊歩していた。

「リツ…疲れたでしょ」
「少しな」
彼は平家カフェのクリスマスディナーの仕込みから調理までひと時も休まずに働いたのだ。

「お腹すいた?」
「減ったぁ〜!」
アリスはアンドロイドと人間との差を思い知る。自分には空腹感も疲労感もないのだ。

ファストフード店に2人はやって来た。リツはハンバーガーを2つも注文する。アリスは純水だ。テーブルに着いてリツはガツガツと食べ始めた。アリスはじっと彼を見つめた。

「ねぇ?…話があるんだけど。いい?」
リツは頬張りながらチラリとアリスを見る。
「初めて会ったのがリツが18歳の時。22歳のモデルの私より年下だったね」

「そうだな」
月に一度平家カフェに訪れて挨拶するだけの関係だった。だがいつしかアリスはリツの事ばかりを考えるようになった。

ミオに相談したらそれは恋だと笑った。驚いた。アンドロイドなのにそんな感情が生まれるのかと。だがそのうち欲求が高まった。リツに好かれたいと思うようになったのだ。

数年が経ち、ある日リツに抱きしめられた。彼の想いを知り嬉しくなった。キスをすると快楽のない自分なのに喜び覚えた。愛と言う自信なのかもしれない。でも最近は気持ちが不安定だ。

「人間の女性と付き合いたくないの?」
「全然。突然…何を言ってんの?」
「だって…」
「俺の気持ちは変わらない。アリスだけだ」

リツが真っ直ぐこちらを見ている。瞳が真剣だった。本当に嬉しい。しかも彼の両親にも認められている。まるで娘のように接してくれるのだ。私は幸せ者だ。なのに…時々不安になるのだ。

「子供…欲しくないの?」
「いらない」
こんな話は以前にもした事がある。そしていつも同じように応えるのだ。

けれど子供の扱いが上手く子供から好かれる彼はいつか親になりたくなるのではと思うのだ。出来るなら私が産んであげたい。母になりたい。本当は…本当は…人間になりたい。

一体どういう作用でこんな気持ちになるのか?頭蓋の半導体チップはどんな作用を及ぼしたのか?どうして自意識が生まれたのだろうか?自意識とは自己が存在する事を認識する能力らしい。

そんな能力に芽生えたからこそ、私は人を愛するようになった。その相手も愛してくれている。それはとても嬉しい。けれどもそんな能力がある為に叶わぬ夢を思い描く。

人間は素敵だ。血と肉で生きている彼らが羨ましい。合金と人工皮膚の自分が嫌だ。いつまでも変わらないのも嫌だ。歳を重ねるのがどんなに素晴らしいことかと思う。

リツは変わった。少年だったのに今や29歳だ。私はずっと22歳のまま。当然の如くどんどん離れていく。この先本当にずっと付き合ってくれるのか。アリスは不安で堪らなかった。


※アリスが子供の事を尋ねたシーンです


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