アンドロイド転生294
[5部 始]
2118年2月5日 深夜
茨城県つくば市:TEラボ前
TEラボのアンドロイド処分場に職員のキサラギトモエはいた。同じくラボの職員4人と目で挨拶を交わす。月に一度のこの会合がキサラギにとって背信でもあり救いでもあった。
静寂に包まれた処分場内には廃棄されたアンドロイドの肢体が山積みになっていた。5人は無言で慣れた作業を始める。ワゴンを押して損傷の低いアンドロイドの部位を収めた。
山になるとラボの裏口に運ぶ。後に回収車がやって来てこれらを積んで何処かに走り去って行く。キサラギのしている事は横流しだ。だが何に使うかは知らないし、どんな相手かも分からない。
そんなのはどうだって良い。私は自分の役目を全うするだけ。キサラギは黙々と仕事をする。毎月のこの作業が彼女の取り分となってスイス口座に振り込まれる。だがこれは背信行為だ。
もしこんな事がラボの上層部に知れたら会社をクビになるどころか逮捕されるかもしれない。だがそれを覚悟の上でもキサラギは金が欲しかった。娘の為に。自分の為に。何がなんでも…!
悠長な事は言っていられない。正義を掲げるつもりもない。罪であろうとも報酬が手に入るならば御の字だ。私は何があっても我が子を救うのだ。10歳のひとり娘。ホナミだ。
キサラギは先程の夕食時に会ったホナミを思い出す。顔色が悪かった。食欲はなかった。普通の子供なら育ち盛りのパワーに煽れる筈だが娘にはない。いつもの事だけどそれが悲しい。
『もう少し食べれない?』
ホナミの細い身体に肉をつけて欲しかった。
『いらない…プリンなら食べれる』
ホナミはトレイに乗ったデザートを見つめた。
キサラギは微笑んだ。
『うん、いいよ。食べなさい』
何でも良いから少しでも口にして欲しかった。
『ごめんね…ママ』
食べれない事を詫びる娘が切なかった。ホナミはやっとの事でプリンを食べて何度も深呼吸をしてベッドに横になった。キサラギは娘の髪を撫でた。
『歯磨きは?』
『うん…。後でする。疲れちゃった』
『うん。イイよ。歯磨きなんて』
『ねぇ?ママ…読んで』
キサラギはホナミの最近お気に入りの星の王子様のホログラムを立ち上げて読み始めた。
ホナミは力なく微笑む。ここは茨城県つくば市にある国立メディカルセンターの小児病棟だ。ホナミは先天性の心臓疾患を患っている。救う道はただひとつ。心臓移植だ。
※キサラギの初登場シーンです
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