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アンドロイド転生840

2118年7月30日 PM23:45
東京都葛飾区:亀有公園 

リツとアリス。チアキは車を降りて公園の中に入って行った。園内は広く鬱蒼と木々が茂っている。大きな池もあった。人影はなかった。リツ達は口々にスミレの名を叫んだ。

三方向に分かれて探したが見つからない。池のある中心部に戻って来た。暗い水は街灯に照らされてビロードのようだ。まさかそこにスミレが沈んでいるとは誰も思わなかった。

リツは眉間に皺を寄せアリスを見た。
「公園でスミレの信号が途絶えたらしいんだ。信号がないって事はどう言う意味だと思う?」
本当は薄々分かっている。だが想像したくない。

アリスとチアキは顔を顰めて互いに目を見合わせた。言いにくそうに下唇を噛む。信号がなければアンドロイドは機能停止(死)である。でも口に出せば本当の事になりそうで怖かった。

リツはスマートリングを起動した。宙空にソウタの姿が浮かんだ。
「スミレは…帰って来ましたか」
ソウタは無言だがその表情で答えなど分かる。

ソウタはポツリと呟いた。
『イヴちゃんに…聞こうかと思う』
「はい」
『一緒に聞いてくれ…な?』

5分後。リツ達はソウタの家に到着し、玄関で彼に迎えられた。呼吸が苦しそうだった。びっしょりと汗をかいている。元ナースのアリスが駆け寄った。額や頬に手を当て熱を測った。

「39.4℃!直ぐに横になって下さい。ああ…。その前に服を脱いで。汗を拭きます。チアキは着替えを探して。リツは白湯を作って。レモンでも蜂蜜でもあったら入れて!」

ソウタは拒否した。直ぐにイヴと話したいと言う。だがアリスの断固とした様子に漸く従った。15分後。服を着替えて額に冷却ジェルを塗り蜂蜜とレモンのお湯割をソウタは飲んだ。

アリスはベッドで暖まっているソウタの首にタオルを巻いた。リツはまたキッチンに立ってお粥を作った。ほぐしたチキンと卵を落とす。ネギをパラパラと振って持って来た。

「ソウタさん。少しでも良いから食べて下さい。万が一と思って薬を持って来ました。食べたら飲んで下さい。な?アリス」
「うん。よく効く薬ですよ」

ソウタは何とか半分だけ食べて薬を飲んだ。アリスがまた首と頬に手を当てた。
「39.2℃。あまり変わりません。悪化したら病院に行きます。いいですね?ソウタさん」

ソウタは頷くとイヴを呼んだ。宙空にホログラムのイヴが浮いた。彼女に事の顛末を伝え捜索を依頼した。イヴは頷くと人工衛星をハッキングした。亀有公園の近くに焦点を当てる。

だが池の底に沈んでいるスミレを発見出来ない。暗闇の水の中は難しいのだ。
『リアルタイムでは発見出来ません。時間を遡ってみます。行方不明になった8時からです』

一同が不安げにイヴを見つめた。ソウタは思わず息を止めて咳込んでしまった。なかなか止まらず苦しそうに喘いだ。ソウタの瞳に涙が滲む。アリスがソウタの背中を撫でた。

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