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アンドロイド転生748

白水村集落:ルークとミオの部屋

ルークは自室に戻った。ミオはベッドの隅にしゃがみ込み俯いて耳を塞いでいた。だがそれには効果はない。警告音は彼女の内側で鳴っているのだ。絶え間なくいつまでも。永遠に。

「ミオ…」
ルークは大丈夫かとは尋ねない。大丈夫ではないからだ。警告音はミオを正常に動かすプログラムを破壊するのだ。少しずつ。

もう打つ手はなくなった。ミオは苦しむだけである。だから殺せと…?簡単に言わないでくれ。ミオは死を恐れているんだ。そんな彼女に永遠の別れを宣告出来るのか?

打開策を見つけたいのに時間が掛かる。しかも時の確約が出来ない。ミオを救うには機能停止する他ない。電源を長押しするだけでミオは2度と目覚めない。それを俺に決断せよと…。

ルークはベッドに腰掛けてミオの背に手を当てた。ミオは驚いて叫ぶと益々隅に寄り、縮こまって泣き出した。ルークが誰だか分からないのだ。時々正常になるが概ね異常だ。

ミオは虚空を見上げてポロポロと涙を溢す。体内の水分が枯渇するのでルークは純水を差し出したがミオは思い切りグラスを投げつけた。壁に当たって砕ける。ルークは片付け始めた。

ミオの手がルークの背に触れた。振り返るとミオは彼を見つめて申し訳なさそうな顔をしている。正常な時に戻ったようだ。
「ごめんなさい…」

ルークはミオを抱き締めた。直ぐにミオの身体が震え出した。顔が苦しみで歪んだ。
「あ…あ…。煩い…。止めて。誰か止めて」
震えが大きくなって来た。

ミオは唸り声を上げた。目があり得ないほど見開かれ、身体の振動が激しい。ルークはきつく抱き締め続けた。ミオは叫んだ。いや、咆哮だった。どこからそんな声が出るのか。

ミオはゲラゲラと笑い出した。彼女のプログラムは益々常軌を逸してくる。笑い声は止まらない。だが顔は醜く歪み、とても楽しんでいるように見えない。苦しみの中で生きている。

ルークはしっかりと抱き締めて呟いた。
「ミオ…助けられなくてごめんな…」
ルークは彼女の頸の電源を押した。無になるのが怖いと言うが起きている方が辛い筈だ。

ミオの身体から力が抜けた。首がルークの肩にガックリと落ちた。瞳が閉じられ穏やかな表情になる。彼女は無になった。ルークはミオの美しい顔を見つめるとそっとキスをした。

彼は頷くと再度ミオの頸の電源に触れた。そのまま押し続ける。長押し…それは死を意味している。ミオの瞳がカッと見開かれ顔がブルブルと震えた。ルークはごめんと何度も囁いた。

間もなく…ミオは死んだ。

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